狭間

□一話
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「ちょ、大丈夫ですか!?しっかり…!」

男の人はまた意識を失ってしまったみたいだ。
急に押し倒してきたり、巨人とか、壁とか、よく分からないことを言うよく分からない人だ。
やっぱり頭を打ったのかな…救急車を呼んだ方がいいかな。
でもこの人保険証とか持ってるのかな、お金も…。
多分持ってないだろうな。体が震えたりしてないししばらく様子を見よう。
そう思って再びその人を布団に横たえた。

「…ふぅ。」

この人のこと、どうしよう。
多分普通の人じゃない。あんな物騒な長い刀を持っているし、変なコスプレっぽい恰好をしていたし。
それに言う事が少し変だ。
きっと面倒なことになるだろう…そう思うのになんとなく放り出す気がしなかった。
あの人にのしかかられた時の痛みを思い出す。重く響く痛み。それに見下したあの目、脅迫っぽい質問。思い出すだけで興奮しちゃ…
じゃなくて!
今まで会ったことがないタイプの人だから…なんとなく私をどこかに連れ出してくれそうな気がする。
だから面倒だと放り出したくない。
じゃあ考えてみようか。あの人のことを。
まず荷物長い刀とワイヤー?あれは巨人と戦う道具らしい。
確かにあんなに長い刀なら巨人でも倒せそうだし、ワイヤー使えばなんか忍者っぽく巨人によじ登れそう
あと、壁。
うーん、壁って普通閉じ込められてるイメージがあるけど…。
うーん………まあいっか。
ていうかなんで巨人と戦っているんだろう?うーん、これも分からない
けれどあの人の体は筋肉質で重く戦う人の体っていう感じがした。
頭を打って妄想を話しているのではないのかもしれない…でも、もし妄想ではないなら
巨人も壁も現実には存在しない。まるで物語みたいだ。
まるで、物語?物語!?物語だ!!
なんか物語の世界から現実に来てしまったみたいな話があった気がする。…そういう話はもちろん妄想だけど
この世にはもう一つの違う世界が重なってるとか、もしもの世界のパラレルワールドが無数にあるとかそういう話もたくさんある。…やっぱり妄想だけど
でも、もしかしたら、本当にあるのかもしれない。
本当に私を新しいところへ連れ出してくれるかもしれない。
もしかしたら、でしかなんだけど。
はやる心を抑えるために軽く息を吐いた。

期待はするな。裏切られるだけだ

よし、落ち着いた。とりあえずこの人はここに寝かせておこう。私は私の仕事がある
その人を一度振り返ってから扉を閉めた。
…あの人、イケメンだ。



意識が浮上した。夢ではなかったらしく、さっきの天井が目に入った。
が朝になったようでカーテンから光が差し込んでいた。
っち、夢じゃねえのかよ。
扉が開けられ、意識を失う前にみたガキが姿を現した

「あ、起きました?眩暈とかしませんか?気持ち悪くないですか?」

明らかに前回より距離をとって話しかけられた

「あぁ。」

「それは良かった。…もし用が足したかったらあっちにあるんでどうぞ」

ガキのくせにやけに気の効くガキだった。

「…すまねえ、借りる」

…こりゃ、文明の差がありすぎる。
トイレ一つとってみても自動で水が流れ明かりがスイッチ一つでつく。
もしかしたらと思っていたが
俺は異世界に来てしまったようだ

が、そんなことよりも

「っち、汚ねえな…」

昨日は掃除してないに違いない。

トイレを出て部屋に戻り、そこにあった椅子に座った。
椅子と机があり、椅子の正面には黒い板のようなものがあった。
ガキが俺の正面の椅子に座った。

「……」

「…………」

「……」

「…………!」

沈黙が耐えきれなかったのか、ガキが口を開いた

「あの、もしかして貴方は他の世界からここに来てしまったんですか?」

「ほう…。どうしてそう思う」

「…私たちの間には、常識のズレがあるみたいだったし、それに巨人と戦う道具の、あんな長い刀を持っている人は見た事もないです
けれど巨人と戦う道具であることは間違いないだろうから妄想を話しているわけでもなさそうで
じゃあもう…違う世界から来た、としか思えなくて」

こいつは賢いのか、馬鹿なのか。どうしたらその結論に結び付くのか理解できねえ
だが…

「あぁ、どうしてこうなったかは分からねえがそうなんだろうな」

俺もそうとしか思えなかった。
俺の言葉を聞きガキは、嬉しそうに笑っている。そうだと思ったとか、物語みたいだとか言ってやがる。随分と夢見がちなガキだ。
それに…警戒心が薄すぎる。
俺はガキの手首を掴んで引きよせもう片方の手でガキの首に手をかけた。
だが昨日と同じようにその目は少し嬉しそうだった

「おいガキ、警戒心が薄すぎる…昨日のことは忘れたのか?
まあいい。俺をこの家に置け。断るなら今ここで殺すまでだ」

手に軽く力を入れる。ガキの体がビクッと震えた

「ガキ、早く答えろ」

「…えっと、条件があります」

なんだこのガキは、ここで条件だと?少し力を強めた

「言ってみろ」

「もし元の世界に戻る術が分かったら私も連れてってください」

目はキラキラと輝き、首を絞められているのを感じていないように俺を見つめる。
…こいつは異常だ。
だが、悪くねえな。

「あぁ、連れてってやる」

そういうと嬉しそうに笑い

「じゃあ、どうぞ私の家でゆっくりしてください」

笑顔で言い切った。
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