+小説+


□迷い猫
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僕は沙織<サオリ>と言う男に拾われ
李蘭<リラン>と言う名前をもらった


「沙織は嫌いじゃないの?」
「…何がですか?」


キョトンとする沙織
この世界の生き物は
他の種族を嫌うと言っていた
沙織はこの世界の住人なのに…


「そう、ですね…」


沙織は『人間』であり
僕は『猫』なのだ
人間は僕を白い目で見た
でも沙織はそれをしなかった


「この世界の猫と君は、少々違います」
「そう、なの…?」


僕の世界ではみんなが仲間だった
みんなが友達だった
僕には心が『聴こえる』
みんながお互いに
お互いを大切にしているのが分かって
すごく温かい気持ちになれた
でも…


「互いに憎みあう世界、ですか…」


この世界では
みんなが敵だった
それが『聴こえて』怖かった


「でもね、沙織からは聴こえなかった」


沙織は綺麗だった
僕を救ってくれたんだ
この世界は空気が汚い
息苦しい
でもここは特別で
沙織も特別なんだ


「良いですか、李蘭」


沙織は微笑を浮かべながら
真剣な目をしていた


「この世界では全てが嘘で全てが真実です」


僕にはその言葉が理解できない
それは矛盾している


「真実を知らなければ真実になりますし
 真実を知っていれば嘘になります」


真実が嘘で
嘘が真実


「ですから、
 李蘭は私に騙されているかもしれません」
「どうして?」
「あなたが真実を知らないからです」


嘘が真実になるとは
そう言う事なのだ
でも僕は沙織に嘘があるとは
思えない
沙織は僕を助けてくれたし
綺麗だから


「私が綺麗ですか…」


沙織はさっきとは違う微笑を浮かべていた


「明日は外に出てみましょうか」
「うん」


ここがどんな場所なのか知りたい
それに何か思い出せるかもしれない


「李蘭」
「?」


何の笑みも浮かべない沙織


「私は綺麗ですか?」
「うん♪」


沙織は少し固まり
それからゆっくりと笑った
その笑顔は苦笑にも見えたし
安堵したようにも見えた


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