捧げ物・頂き物

□ゆるし色のおひと
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しとやかに降り積もる雨は、江戸を灰色に染めて
雨を吸った枝は黒檀色
見事に咲き誇る花弁は白にも近い薄紅色
ひとつだけ存在感を発するその木の下で、紫色の姿は一枚の絵のようだった

その煙った絵が、酷く憎らしくなって
そっと憎いおとこの傍らに並んだ
包帯に包まれた眼は、本当に薄ら紅の霞をみているのか
なんら表情の読み取れない、無機質な容



おとこが表情をうつすことは少ないけれど、自分だけであろうか、平伏して赦しを請うているようにみえるおとこの容は
それはもううつくしくて
這いつくばるような声なき叫びは
どうしようもない悦を感じさせた
ぞくぞくと身体を走り廻る悦楽はただ目の前の景色を艶めいてひからせる



ひどくひどく好きだけど、それはもう食べてしまいたいくらい好きだけど
だからこの世の誰より憎くて憎くて仕様がなくて
「ぼくはあなたが好きですよ」
ふんとわらうおとこに救いや、一筋の光さえ齎すことはできないけれど
「だからあなたがどんなになっても、僕が最後まで観ててあげます」
「…とんだ変態が」
強気に憎まれ口を叩くこのおとこが這いつくばって、平伏して、足掻き続けるのを想像したら
包帯に隠れた眼の奥で、まるで似合わない華奢な怯えと、どうしようもない悦が走るのをみた気がした





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