思い出宝箱

恐怖のドッジボール
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 F君くんのまわりにはいつも人が集まる。それは、F君が面倒見がよく、裏表のない兄貴的存在だったから。クラスのリーダーといえばF君だよねと、みんなが認めていたほどだ。


 そして、3年生のクラス替えのとき、リーダー対決という一大事が起こる。

 それまでリーダーだったF君と、他のクラスでリーダーだったY君が同じクラスになり、F君を支持する人とY君を支持する人で、クラスが真っ二つに分かれた。

 ある体育の授業のとき、「どっちがリーダーにふさわしいか勝負しよう!」とY君が言い出し、Y君派もF君派も盛り上がってしまい、とうとう決着をつけるときがやってきた。

 しかも、その日に限ってドッジボール。私が苦手だって知っていたF君が、「おまえのことは俺が守ってやるから。絶対に俺から離れるなよ」と不安を和らげてくれた。

 Y君は普段は妹思いの優しいお兄ちゃんだけど、意外と執念深く、熱中するとまわりが見えなくなるタイプだった。

 だから、F君めがけてボールがビュンビュン飛んできては、私の横をすさまじい早さで通り過ぎていく。

 F君の後ろにいることで、逆に身の危険を感じていたが、F君のそばを離れるなんてさらさらなかった。なぜなら、Y君はF君に当てるつもりで加減することなく投げていたから。

 実際、F君がかわしたボールが同じチームの女子に当たってしまい、泣き出すというのを目の当たりにしてから、よけい怖くて怖くて仕方がなかった。

 そして、Y君くんの勢いは止まらず、チームメイトの誰かに当たる鈍い音を聞くたび、私は歯を食いしばってなんとかボールをかわし続けたのだった。

 終いには、Y君対F君と私だけとなり、今度はのろい私が標的となり、Y君くんからも外野からも集中攻撃され、ほんと泣きたかった。

 こんな怖い思いをするんだったら、一番はじめにボールに当たって、外野でのんびりしてたほうがよかったと、F君に守られながら、そう思ってしまう自分がいた。

 結果、リーダー対決はどうなったのかというと、Y君は納得しなかったけど、ボールがY君の指にかすったと先生が判断して、F君の勝ち!



 今までいろいろな経験をしてきたけど、このドッジボールのことは今でも鮮明に覚えている。だから、今もドッジボールなんて大嫌い。

 だけど、F君の「おまえのことは俺が守ってやる」発言は、いつになってもいい思い出。だけど…………、



 本人は覚えているかしら?




【終】

2012.01.12


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