思い出宝箱

入学式は今日ですよ!
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 3月の下旬にもなると、引っ越し業者のトラックが頻繁に出入りし、新学期に向けて隣近所が次々と越してきた。


 4月8日。

 忘れもしないその日。

 転入する小学校に挨拶も兼ねて親も同行すると近所の人とそう決めたらしく、スーツ姿のお母さんと妹たちを玄関で見送った。

 入学式を次の日に控えた私は、特になにかをすることもなく、ただテレビを見てお母さんたちが帰ってくるのを待っていた。



***



 お昼前に、お母さんがため息まじりに帰ってきた。

 どうしたのかと聞くと、「微妙」の一言。

 なにが微妙なのかと聞くと、学校がとても古く、生徒たちがみんなジャガイモみたいだという。それから、私服ではなく水色のジャージで登下校し、学校指定のヘルメットを着用しなければならないという。

 先生から説明を受けた、次女や近所の子供たちはみんな青ざめた顔で教室に連れていかれたと、熱いお茶を飲みながら「とんでもないところに引っ越してきちゃったね」とお母さんが言った。

 三女はというと、三女の通う幼稚園は、次女の小学校の敷地内にあり、教室に入ってすぐに知らない子供たちと遊びだし、問題ないと思ってそのまま置いて帰ってきたという。

 更にため息をつき、次女の小学校があれだったから、私が明日から通う中学校が気掛かりでならないと言った、そのときだった。

 電話が鳴り、お母さんがいつものように受け、「いつもお世話になっています。……あら、明日からお世話になるんでしたよね」と言い直したとき、お母さんの顔が急に青ざめ、「……す、すみません! 今すぐ行きますっ!!」と電話の相手に向かって謝りだしたのだ。

 受話器を置くなり、きょとんとしている私に向かって、「制服着て、今すぐ出かけるわよ!」と言うなり、脱いだスーツを再び着るお母さん。

 訳がわからず、もたついている私に、「ブラウスなんてどうでもいいから、適当にこれでも着てなさい」とお母さんに渡されたブラウスにブレザーを羽織って、明日から通う中学校へと向かったのだった。




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