思い出宝箱
□憧れのセーラー服
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小学校卒業と同時に、私は同じ県でも遠く北のほうへ引っ越しました。
見慣れたビルもなく、交通量も少ない、まわりはただ広い道路と田んぼと畑のみ。
空気はおいしく、ベランダからながめる風景は美しい。緑の多いその地は、蛇口をひねるたびに冷たくておいしい水がでる。
南と北ではこんなにも違うのかと驚きを覚えながら、引っ越してきたその日は、お父さんの運転する車で市内をあちこち回りました。
まずは駅、商店街、私の通う中学校、妹の通う小学校、市役所、公園。どこに行っても田んぼと畑はつきもので、「すごく田舎だね」と妹と同じ言葉が出たくらいです。
***
次の日、私はお母さんに連れられて、中学校の制服を作りに行きました。
店に入ってすぐに、2種類のセーラー服が飾られていました。
赤と白のリボン、どちらもかわいらしく、憧れのセーラー服を着られるんだと思った瞬間、「やった!」と飛び跳ねて喜んでしまいました。
そんな浮かれた私のもとへお店の人がやってくるなり、「どちらの中学校ですか」と聞かれ、「東中です」と私が答えると、お店の人が間を置いて、「東中はこちらの制服です」と左手で示されたところを見ると、マネキンの胸元にでかでかと書かれているではないですか!
“北中と東中”、その文字が目に入った途端、あまりのショックさに言葉が出てきませんでした。
紺のブレザーに、白のブラウスと紺のスカート。
私の通う東中は、ブレザーだったのです!