思い出宝箱

家が博物館
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 博物館といったら大げさかもしれませんが、小学校の時までに住んでいた家には、数多くの土器を展示していました。

 父の夢は博物館の館長になることだったらしく、我が家のクローゼットの一部は縄文土器や石器等に占領されており、収納スペースがないと母はぼやいていました。


 2階のベランダは父の作業場です。

 仕事の休みの日には、そこで黙々と土器を組み立てていたり、やすりで何かを擦っていたりとしていました。

 また、近くで土器が発掘されると、発掘現場に行ったりと、私も小さい頃からいろんな場所に連れて行かれました。

 そんな父は一体何者かと申しますと、大学で考古学を専攻していまして、当時は考古学に関する書類が封書で送られてきたりとしていました。

 まわりの人には物好きな人と思われていたかもしれませんが、家庭訪問の時期になると、なぜか私の家は一番最後でした。

 どこで耳にしたのか、私や妹の担任の先生は決まってこう言うのです。

 「お宅で飾られている土器をぜひ見せてください」と。


 家庭訪問のはずなのに、学校の話題はほんの5分程度で、残りの時間はその場にいない父の趣味の話になるのです。

 私の通っていた小学校は、先生の入れ替わりが激しく、毎年担任の先生が違いました。

 ですので、毎回同じような質問を担任の先生からされ、毎回同じように母が答えていました。

 どの先生も私たちよりも父の趣味に興味津々で、我が家での家庭訪問はいつも1時間以上でした。



 ────今ではなつかしい思い出です。

 その地を去るときに、土器や資料等は博物館に寄付しましたが、今でも私の心にはあの美しい模様が焼きついています。



【終】

2011.01.12


 

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