WJ

□酷く足場の悪い場所にいる僕と、その先の君
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一護の家の前にまで来て、玄関を開けようとした俺の手が止まる。
(待て、俺。俺様は今パーフェクトボディじゃねーんだぞ?)
このまま勝手に上がったら家族に変に思われること間違いなし。
どうする?どうする俺!?
「あ?恋次?お前、どうしたんだよ」
「い、一護ぉ!?」
「お、おう。何だよ」
素っ頓狂な俺の叫びに驚いた一護が、怪訝そうに眉間の皺を増やした。
「お前、何で?学校は?」
時刻はまだ昼を少し過ぎたあたり。普通ならまだ学校のはずだ。
パーフェクトボディを何故か隠しながら尋ねれば、さらに眉間の皺が増える。疲れないのか、お前は。
「今日は午前だけだ。てか、おめぇら今日学校休んだだろ。いくら破面との戦いでこっちにきたからって、転入早々休んでんじゃねぇよ」
「え、あ、あぁ、ワリィ」
何で謝ってんの、俺!?
「別にいいけど。それより、何か用事か?」
「え………いや、何も用事はねぇけど」
「?まぁ、いいや。とりあえず上がれよ」
「!お、おう」
一護の後について家に入る。
見慣れているはずなのに、入っている体が違うだけでこんなにも見知らぬ場所になるものなのか。
「あ、お兄ちゃんお帰り」
「!!?」
出た!俺に恐怖を植え付けた一護の妹!
「ただいま」
「お兄ちゃんのお友達の方ですか?いつも兄がお世話になっています」
「っ!い、いえ、こちらこそ、お世話されて…………なってます、です、はい」
「………………………」
真っ青な顔でダッラダラと汗を流し不自然に敬語を使う俺を、いぶかしむように一護が見ていた。
「後でお菓子と飲み物持っていくね、お兄ちゃん」
「あ?ああ、悪いな」
「ううん。じゃ、ゆっくりしていってくださいね」
台所に笑顔の妹の姿が消えて、ようやく俺の肩から力が抜ける。
そのまま無言で一護の部屋に入って、一護は俺に床に座るように勧めた。
「どうしたんだよ、恋次。何か変だぞ」
「………………………」
落ち着かない俺は一護の話をあまり聞いていなくて。しかも呼ばれた名前が違うものだから、返事を返すことができなかった。
「恋次?おい、恋次!」
「へ………あ、俺?」
「何呆けてんだよ。お前以外に誰がいんだよ」
間抜けた返事に呆れたような一護の声。
ああ、そうだった。俺、今、「コン」じゃねーんだ。
この体の持ち主は「恋次」。
そうだ。確かにそんな名前だった。
「恋次?」
「あ…ああ。何でもねぇよ」
普段の「恋次」はどんな風に一護と接しているのだろう。どう言葉を交わし、どう歩き、どう笑い、どう怒り、どう一護に触れるのだろう。
もし俺がこの世に実体として存在していたら。もし俺が体を持っていたなら。もし俺が違う形で彼の傍にいれたとしたら―――――………。
俺は一体どんな風に一護と接することができただろうか。
「「………………………………………………………」」
部屋に落ちるのは二人分の沈黙。
考え込むような視線で俯いていた一護が、不意に顔をあげた。
気配を察して視線を向けた俺と(恋次と)目が合う。
「……………お前、もしかしてコンか?」


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