WJ

□犬でヘタレな君
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黄瀬は変なところで逃げ腰だ。
たとえば、今。


今日黄瀬は火神の家にお泊りである。
偶然にも二人とも部活の休みが重なり、なんなら前日から泊まって翌日一緒に朝から出かけようということになったのだ。
部活終了後、誠凛高校に黄瀬が寄り、火神と黒子と帰りを共にし、いつものようにマジバでだべってから火神の部屋へ。
黄瀬のスキンシップ過剰はいつものことで、校門でまず抱きつかれた。マジバで口の端についたソースを拭った指を舐められた。黒子もいるのに手を繋いで歩いた。晩御飯を作っている間後ろに張り付かれていた。
いつものことなので、火神は何も言わなかった。
嫌なわけではないので、何かを言う必要もなかった。
恥ずかしいと言えば恥ずかしいが、付き合いだした当初に比べれば慣れたものだ。
一緒に風呂に入るとごねられた時は、一人で入りたかったから断ったが。
そんな常日頃から当たり前のようにスキンシップでコミュニケーションを取る黄瀬の、今現在ベッドに座っている火神の頬に伸ばした手は震え、顔は笑顔だが緊張に強張っている。
面と向かった途端この通りなのだ。
そんなヘタレな黄瀬に苛々しないと言えば嘘になるが、普段余裕な人間がここまで緊張するのだ、何だか可笑しくなってくる。
火神は自分から黄瀬の手に頬をすり寄せた。
「っ!?」
途端、真っ赤に染まる黄瀬の顔。
「〜〜〜も、不意打ちっスよ……火神っち……」
「こんくらいで動揺してんなよ、バァカ」
「わわっ」
くしゃくしゃとそれこそ犬を撫でるみたいに頭を撫でてやれば、黄瀬は嬉しそうに笑った。
つられるように、火神も笑う。
「ヘタレ黄瀬め」
「ひどいっスよ〜、火神っち〜」
情けない声を上げながら、黄瀬も火神の頭を撫でる。
その手はもう震えてはいない。

しばらくそうして互いの頭を撫であいながら笑って、そうしてそっとどちらからともなくキスをした。


終わる。


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