WJ

□プリーズ・ファーストネーム
1ページ/2ページ



「火神君」
練習終了後の自主練習中。火神の前に立った人物は真剣な顔で火神を見上げた。
「何だよ、黒子」
シュートフォームの確認をしていた火神は、目の前に立った黒子の存在を気にかけることなく、フリースローラインからシュートする。
ナイスシュート。
スパッと小気味よい音を立てて、ボールがゴールをくぐった。
テンテンとバウンドするボールを拾い上げ、フリースローラインに戻ってきた火神を見上げて、黒子が再度口を開く。
「火神君。ボクのこと、テツヤって呼んでください」
スパッ。
「何で」
テンテンテン。
「帰国子女だというのに、火神君にはフランクさが足りないと思うんです」
スタスタスタ。
「十分フランクだろうが」
ひょい。
「お前のはフリーダムだ」
傍で二人の会話を聞いていたキャプテンのツッコミ。
「同じく帰国子女の氷室さんは、呼び捨てでした」
スタスタスタ。
「まあ、兄貴みたいなもんだからな」
スパッ。
「その氷室さんは紫原君のこと呼び捨てでしたよ」
テンテンテテ。
「年下だからだろ」
スタスタスタスタ。
「………でも、あっちでは皆さん呼び捨てなんですよね?」
ひょい。
「まぁな。ミスだのミスターだのつける時もあっけど」
スタスタスタスタ。
「だったらいいじゃないですか」
構える前に火神からボールを奪おうとする黒子。
「日本では名字で呼ぶのがスタンダードなんだろ?お前だって名字で呼ぶだろうが」
火神はそれを軽くかわすと、ボールを掴んだ片手を黒子の届かない上に伸ばしてしまう。
「じゃあ、僕が名前で呼んだら名前で呼んでくれますか?」
届くわけない高さに少し眉を寄せた黒子だったが、とりあえずジャンプをしてみた。
勿論掠りもしない。
「何がしてぇのお前?まあ、別にいいけど」
手を下ろし、顔の横でクルクルとボールを回転させる火神。
「大我君」
本人の了承を得、無表情の中に嬉しさを滲ませて黒子が火神の名前を呼んだ。
「君はつけんのか。あー、テツヤ」
交換条件なので仕方なく火神が黒子の名前を呼ぶ。
「はい」
呼ばれた黒子は非常に満足そうだ。
これに何の意味があるのだろうかと一瞬思ったが、一瞬後にはどうでもよくなったので火神は気を取り直してゴールに集中する。
手からボールが離れる直前………
「俺!俺、涼太っス!大我っち!」
「俺大輝な、大我」
「真太郎なのだよ、大我」
「俺は和成な、大我!」
すぱーん!と派手な音をさせて体育館の入口を開け、一番初めに駆け込んできたのは黄瀬。次いでにやにやと人を馬鹿にしたような笑みを浮かべてきたのは青峰。そして、手乗りというには些か大きいサイズのこけしを抱いた緑間と、付き添いであろう高尾が最後に体育館の中へと現れた。
ボールは暴投。ゴールを大きく反れ、壁にぶち当たって遠くへ。転がった先には水戸部先輩がおり、ボールを拾い上げると籠に戻してくれた。これで誰かが怪我をすることもない。
「!お前らどっから沸いた!?」
ボールそっちのけで心底驚く火神の隣で、黒子の舌打ちが聞こえたような気がするが聞かなかったことにしよう。
「俺鉄平ね。大我」
「先輩……………」
ポン、と肩に手を置き満面の笑みで告げる木吉に、火神はがっくりと肩を落とすしかできなかった。


END


.
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ