WJ

□糖蜜
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見上げる先には、天井の木目と端正な顔。
「そういえば……」
文字通り床に釘で打ち付けられた左手は、鼓動が脈打つ度共鳴するかのようにずきずきと鈍い痛みを訴える。
「形さんの殺人衝動の中に、『自殺』ってのはありませんね」
「……そうだね」
「何ででしょう」
「何でだろうね」
うー…ん、と考える素振りを見せ、あぁ、と何かに気付いたのか宗像は言った。
「ほら、僕は殺人『鬼』だから」
「ナルホド。人を殺す『鬼』だから、形さんは人に在らず。つまり殺人の対象にならない、と」
「恐らくね」
「納得しました」
「だから……」
「だから?」
「だから、君が鬼か羅刹か修羅か、とにかく『人』以外のものにでもなってくれれば、僕は君を殺したくならずに済むんだろうね」
「すみません。どこまでも普通に普通で」
「いいや。いいんだ。そのままでいい。そんな普通な君だからこそ」
宗像はそっと屈みこむと、善吉の打ち付けられた掌に口付けた。
「僕はきっとこんなにも」
掌から流れでる血液が当然宗像の唇に付着し、顔を上げた宗像の唇を鮮やかに染め上げる。
まるで善吉の命を吸い取ったかのようだ。
「君のことが愛しいんだと思う」
そのまま善吉の唇に己のそれを重ねた。
触れるだけで離れれば、宗像と同じように鮮やかな善吉の唇。
綺麗に舌で舐め取って、至近距離で宗像は嬉しそうに微笑んだ。
「善吉の味だ」
善吉は顔を少し浮かせると、犬が舐めるように宗像の唇を舐めあげる。
「鉄の味しかしませんよ」
眉根を寄せれば、可笑しそうに弧を描いた唇が瞼に落とされた。
「甘いんだ」
「甘くなんてないです」
ちゅ、ちゅ、と顔中にキスの雨。
「僕には、甘いんだよ」
啄ばむ様に何度も口付けられ、舌が口内を蹂躙するように動き回れば、じんわりと脳の一部が蕩けたように機能を停止する。
「甘い」
そんな状態で息継ぎの度にそう呟かれては、そんな気にもなってしまう。
「あま、い、ん、ですか、ね……」
「うん。甘いよ」
あまりに宗像が綺麗に微笑むものだから、もうそれでいいかと善吉は思うことにして、そっと目を閉じた。


END



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