WJ

□酷く足場の悪い場所にいる僕と、その先の君
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うららかな昼下がり。パーフェクトボディで俺様が散歩に出かけるのはいつものこと。今日も特盛を探しながら道を歩いていたら…………
「っ!!?」
(な、なななな、なな、なんでこんな所に人が倒れてやがるんだあ!!?)
角を曲がったすぐそこに、真っ赤な髪の大男がうつ伏せに倒れていた………!
「あ?真っ赤?」
そういえばこの派手な頭髪には思い当たる人物が一人。
(たしか目付きが悪くて眉毛が変なうえに体のいたるところに刺青をしてる…………)
死神で無駄に姐さんや一護に慣れ慣れしい態度を取る、ヘタレ犬!
地面と仲良ししている相手の顔を持ち上げれば、ああ、やっぱりそうだ。
「義骸がここで動かないってことは、虚退治か」
でもよー、いくら人通りが少ない場所とはいえ、こんなところに目立つ大男を放置しておくのはどんなもんよ。見つかって大騒ぎになるのは目に見えてるっつーの。
かといってこの愛らしいヌイグルミのままじゃ運べねーしなー。
「仕方ねぇなぁ」
ぼやきながら取り出したのは、某下駄帽子から盗んだ「ヌキ姫」。これで一護や姐さんがいなくてもパーフェクトボディから義魂丸を出すことができる優れもの!
ぺたりとヌキ姫を俺の体に張ると、飛び出す俺様。
ジャストインで目の前の男の口の中に入る。
ごっくん。
「お、動く動く!」
まあ、ここから体がなくなっていたらこの男は真っ先に一護に助けを求めに来るだろう。その時に一護の家に体があれば問題ない。
そういえば一護以外の体に入るのは始めてだな。
暫く手を握ったり開いたりしながらそんなことをぼんやりと考える。回りをぐるりと見ればパーフェクトボディが視界を掠めた。
ひょいと持ち上げて立ち上がる。
「うおっ!視界たけぇ!」
地面が遠い!そういえばこの体の持ち主は、一護より頭一つ分くらい高かったと記憶している。
背の高さが変わっただけで、周りの見え方が違って見えるような気がした。歩きながら首を傾げる。
「何か、変な感じだな」
声も低い。
俺は今一護じゃない。いつものようにパーフェクトボディでもない。かといってこの赤髪の男でもない。
カラの器さえあれば、俺は誰にでもなることができる。
じゃあ、「俺」ってなんなんだろう。
実体を持たない魂だけの存在。何一つ「俺の物」といえるものを持たない俺。弄られてできた偽りの命。
この思考もこの記憶もこの感情も、何もかもが造られ与えられたものだとしたら?
不安定なアイデンティティ。沈む思考。


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