成田さん(首と橋)

□昔々のそのまた昔
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「例えばの話しだよ?」
「…………………はあ」
そう切り出した相手を前に、竜ヶ峰帝人はこの状況の異様さに居心地の悪さを感じていた。
彼の目の前にいるのは、新宿の情報屋・折原臨也。
どうして彼と二人、喫茶店でコーヒーを飲んでいるのかを思い出そうとしたが、半ば強引に連れてこられたことを再確認しただけだった。
学校の校門前で帝人を待っていたらしい臨也は、何時もの三人組が出てくるなり帝人の腕を引き、呆然とする二人など全く無視してこの喫茶店に入ったのだ。
奢りだからと自分の分のコーヒーを注文し、帝人にも好きなものを頼むように勧める。
注文したものが来るまで息の詰まるような(帝人だけがそう感じていた)沈黙を挟み、コーヒーが置かれ一口飲んで一息ついた所で、臨也はようやく上記の言葉を発した。
帝人の返したのは状況が飲み込めず気の抜けた返事だったが、臨也はそんなことなど気にせずに続ける。
「例えばの話し、俺とシズちゃんの前世でも、やっぱり俺たちは仲が悪くて、その前世のさらに前世でも仲が悪かったとする」
「はあ」
唐突に告げられた台詞に、やはり帝人から返されるのは生半可な返事。
――いきなり前世って
「前世のさらに前世のそのまた前世も仲が悪くて、人間だろうが犬だろうが猫だろうが鳥だろうが鼠だろうが蚤だろうが、とりあえず仲が悪かったとする」
「…………………」
帝人はもう相槌を打たなかった。
「本当の所、俺は輪廻転生とか因果応報とかなんてこれっぽっちも信じてないんだけどさ、仮にそんなものがあって実際に俺たちの間に起こっているとすれば、それって凄いことだと思わない?」
――急にどうしたんだろう、臨也さん
意味がわからないのは何時もと変わらないが、今日は拍車をかけて理解不能だった。
「それってつまり、前世の俺とシズちゃんの因果が、現世の俺とシズちゃんの関係に影響してるってことだろう?俺とシズちゃんが出会ったのも、俺が帝人君や紀田君、園原さんやドタチン、セルティやサイモンに出会ったのも、前世かその前かさらにその前に関係があったからってことだろう?」
「そう………なんですかね」
取りあえず同意のようなものを示しておく。
「俺は前世の記憶なんてこれっぽちもないし、前世のこと覚えてるって人なんて見たこともないけど、こうやって考えてみるとさ、やっぱり凄いよね」
「…………………」
そう括って笑う臨也の顔は、今まで帝人が見てきた表面上の笑みとは違い、どこか温かみのある、人間らしい笑みだった。
「そう、ですね」
その表情が見れただけで、帝人の中にあった、突然連れてこられた理不尽さが消えていく。
ただ一つ残念に思ったのは、帝人や正臣、杏里たちのことも話に出しておきながら、結局は平和島静雄に出会えたことが嬉しいのだ、とその笑みが語っていることだ。
二人にとって(臨也にとって?)嫌味の応酬は挨拶代わりで、喧嘩は愛情表現の一種に他ならない。
それに気付いたのは何時ごろからだったろうか。
――何気にノロケられてる?
二人の関係に前世の因果を垣間見た気がして、帝人は苦笑いを飲み込むように、ひとまず手元のジュースを飲んだ。

遠い、遠い、思い出すことのできない昔の記憶。
それでも記憶を蓄積した魂は叫んでいて。
現世でこうして引き合っている。


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