成田さん（首と橋）
□海賊と留守電
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揺ら揺ら揺れる波間の中で浮かぶ船の一室で、戌井隼人は今日も携帯をぼんやりと眺める。
ディスプレイの明かりに照らされる顔は、八割が諦めで一割五分が期待、残り五分が寂しさを浮かべていた。
「………………………やっぱダメか」
呟いてそのまま寝台に仰向けにダイブ。
「わかってはいるんだけどなあ。やっぱ、何か諦めつかねーんだよ、これが。俺とあいつが組んだら最強だと思うのによー」
不貞腐れたような響きを含んでいながら、彼は携帯をいじりながらにやにやと笑っていた。
「海賊楽しいのになあ」
アドレス帳からある電話番号を選び、通話ボタンを押す。
「出ねえだろうけど」
案の定、長い長いコールにも関わらず、相手は電話に応じなかった。
さらにそのまま電話をかけ続けると、留守番登録サービスに繋がる。
『こちらは留守番登録センターです。ピーという音の後に、お名前とご用件をお入れください』
事務的で機械的な女性の声の後、一拍置いてピーという電子音が通話口の向こう、遠い所から聞こえてきた。
「あ狗木ちゃん俺俺あ俺俺詐欺じゃねえからお前さあたまにはメール返してよ一方通行なんて寂しいじゃないの忘れられちゃってるみたいで空しいから5件に1件はマジで返して」
そこまで一息に言い切り、まだ終了の合図が鳴らないことを確認しつつ、声に出さず5カウントを数える。
（5、4、3…………）
「おやすみ」
ピー…………。
最後の最後にそう残して録音が終了した。
「……………………………………」
戌井は通話を切ると、両手を投げ出して大の字になる。
そのまま何もない白い天井を見上げ、ゆっくりと襲ってきた睡魔に目を閉じた。
相手からの返事など返ってくるわけがない。
完全に眠りに落ちても、携帯電話から着信が鳴ることはなかった。
閉ざされた室内には、外の波の音も聞こえてはこない。
静かな、静かな室内で、深く、深く、眠りの中へと沈んでいく。
朝になっても、携帯電話が鳴ることはなかった。
END
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