成田さん(首と橋)

□それは口実
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低気圧。湿り気を帯びた風が吹きぬける。
新宿にも。池袋にも。
「寒いなあ」
コートの襟元を合わせながら折原臨也はぼやく。彼はそれとなく(?)寒がりだった。それは彼の大嫌いな平和島静雄がバーテン服でウロウロしていたり、『ダラーズ』の創始者である竜ヶ峰帝人、『黄巾賊』の創設者である紀田正臣、『妖刀軍団』の母体である園原杏里が制服のみで活動している中、彼だけがファーのついた暖かそうなコートを着ていることからも窺える。
普段はコートだけで十分だが、今日はやけに寒い。
「やっぱ帰ろうかなあ」
そういう臨也は、今池袋にいた。
何をしに来たのかといえば、犬猿の仲に等しい静雄に会うためだ。正確には、会って返すものがあるからだ。
「どうして自分のチャームポイント忘れるかな」
手に持っているのは、何時も静雄がかけているのと同じ型のサングラス。いや、「忘れている」というのだから静雄のサングラスそのものなのだろう。
何故それを臨也が持っているのか、ということはあえて触れないでおく。それが最善であり、懸命な判断であるからだ。
静雄が現在しているバイト先に着くと、ビルの前にサングラスの持ち主がいた。何時ものようにバーテンの服に身を包み、何時もと違う見慣れぬマフラーを首に巻き、何時ものようにポケットに手をつっこんでいる。何時ものサングラスがないからか、今いる彼は名前どおり大人しい青年に見えた。
「シズちゃん」
「…………臨也?」
声をかければ、少し驚いたように目を見開く。
「何でここに………」
言葉を遮るように臨也は静雄の右手を掴み、掌の上にサングラスを乗せた。
「忘れ物」
「は?」
「だから忘れ物。これないとシズちゃんだって判りづらいでしょ?」
「あー…………まあ、サンキュ」
人がせっかく善意で持ってきたのに、静雄はどこかバツが悪そうな顔でそれを受け取ると、複雑そうな顔にかけた。
「何、いらなかった?」
「いや、別にそういうわけじゃねーけど………」
サングラスの下、視線が彷徨う。
いつもの静雄らしからぬ反応に、サングラスを持って来て何か不都合があっただろうかと臨也は考える。


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