成田さん(首と橋)

□見ようによっては
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それはぴったりと寄りそって絶対に離れない。様々な要因で伸び、縮む。交わったと思えば、何の遺恨も残さずすり抜ける。どんなに頑張っても、決して重なりはしない。
だってそれは、似ているようで根本から全く違うものなのだから。

「あ」
「あ?」
池袋。『露西亜寿司』近く。夕刻。
何時もどおり喧嘩をし、何時もどおりサイモンに止められ、何時もどおり寿司屋に連れて行かれて、何時もどおり寿司を食べて、何時もどおり店から出る。
薄暗い外の地面に、街灯の光によって出来た影が落ちた。
臨也が下を向くと、たまたま目についたのだ。何時もは気にも止めないのに、今は何故か目に止まってしまった。
思わず声を漏らすと、不機嫌そうな声音が後ろから降ってくる。
「シズちゃん、シズちゃん」
アレ、アレ、と地面を指差す臨也を後方から睨みつけるが、後ろ向きのため何の効果もない。正面を向いていたところで臨也にはなんの効果もないが。
「イーザーヤア。手前その呼び方やめろっつってんの、わかんねーかなあ?」
「どうでもいいよ。それより、ストップ。そこで止まって。動かないで」
「?」
臨也から半歩未満ほど後ろで止まる静雄。
「ホラ、ホラ、シズちゃん。見てよ」
「あ?何をだよ」
「ココ」
臨也の指を追っていくと、そこには二人の影があった。
「………何もねーじゃねえか」
静雄の怒りのパラメーターが上昇する。
「何言ってんの、ちゃんとあるじゃないか、影が」
「………だからどうした」
沸点に近付き、ぐつぐつと煮詰まる音が聞こえてきそうだ。
「だから、影の頭んとこ」
「頭?」
見れば、並んだ影のうち臨也の影の方が若干だが静雄の影よりも上にあった。
だがそれだけ。二人の立ち位置から考えればこうなるのは当然の結果である。それがなんだというのだろうか。
「俺のが大きい」
どこか満足気に告げる臨也を前に、平和島は噴火した。
「だからどうしたっつーんだよ!」
襟を取られる寸前で臨也はその手を逃れ、おかしそうに笑いながら静雄と対峙する。手にナイフを握りながら。
「やだなあ、シズちゃん。それだけだよ。そんなに怒らないでくれる?」
「くだらねエェェエエエエぇぇぇえぇえぇええええぇぇええ!」
雄叫びをあげ、静雄は自動販売機やら備え付けのゴミ箱やらベンチやらを投げつけ、臨也はそれを紙一重で交わしながら徐々に間合いを詰めていく。
ある程度間合いが詰まると、後は拳と刃との攻防戦だった。
直前まで二人の話題に上がっていた影を見れば、それはまるでじゃれ合っているかのように見える。
幸いサイモンの働く店の傍だったため、すぐに彼が現れこれといった被害はなかった。
サイモンに止められ再び連行される二人は、親に叱られた子供のように、影に映っていた。


END


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