成田さん(首と橋)

□白い花
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航海をしている途中に立ち寄った国で、白くて小さくてなんだか可愛らしい花を見つけた。
現地の言葉がわからなかったから、花の名前は知らない。
ただ何となく目を引いて、見せてやりたいと思った相手がいたからそれを購入した。
代金は少しぼったくられた気がしたが、心の狭い人間でもないため笑顔でサンキューといい店を離れる。
虹色の髪に、白色が加わり、男の髪はいっそう賑やかになった。

「つーかよー。買ったはいいけど、これあそこまでもたねぇよ、絶対。どんなに毎日水変えたって萎れるって、明らかに。どーすっかなぁ。もったいねぇことしちまったかなぁ。あー、でも、見せたかったんだよなー、何故かさー」
などと、先刻花屋から白い名前もわからない花を買った虹色の髪をした男は、ぶつぶつと呟きながら異国の道を港に向かって歩いていた。
一抱えもあるほど大量に買い込んだその花を持って歩く虹色の男に、道行く人々の好奇の目が向けられるが、気付いているはずのその視線を男が気にしている様子は全くない。
「ボス。どうしたんですか、その花は?」
うーん…、と唸りながら船尾に乗りこんできた男に声をかけたのは、薄汚れた作業着を着た男。
「あ、アラさん。あのさ、さっきなんとなくこの花買っちまったんだけどさ、あそこ行くまではどうしたってもたねぇよなーと思ってさ、どうしたもんかな、て思ってたところなんだけどさ、どうしたらいいと思う?」
アラさんと呼ばれた国籍不明の男は、少しばかり考える素振りをみせ、にこりと笑って海を指差した。
「?」
七色の髪を持つ男が、指の先の海面とそこを指す男を不思議そうに交互に眺めやる。
「あそこに行く前に色々と廻らないといけないところがありますからね。その間に枯らすのが勿体無いと思うのなら、海に投げてしまえばいいと思いますよ。幸いここの海流はあそこまで続いてますから、上手くいけば萎れるより先にあそこに流れ着くかもしれないですし」
「おぉ、ナルホド」
虹色の髪を持つ男が心底感心したような声をあげ、スタスタと船尾へと歩いていく。
「んじゃ、補給も済んだことだし、早速出発ー!できるよね、アラさん?」
「勿論ですよ、ボス」
途中で振り返って尋ねる虹色の男に、作業着の男は頷いて答えた。その答えに心の底から嬉しそうに虹色の男が笑う。そうすると、ただでさえ年齢より若く見える顔が、輪をかけて幼く見える。
傍目から見てもわかるほどに上機嫌な虹色の男の指示通り、作業着の男は出航の準備に取りかかった。
しばらくして船が動き出す。
港を離れ、海流にのった頃、虹色の髪の男は、抱えるようにして持っていた白い花を、惜しげもなく一本残らず海へとばら撒いた。
青い海の流れの中に、小さく白い点がいくつもいくつも浮かんでは沈み、浮かんでは沈みを繰り返している。
僅かの間船を追いかけるように浮遊していた花たちだったが、速度を上げた船に徐々に置き去りにされ、流れに身を任せるように今度は船から遠ざかっていった。
「頑張って辿り着いてくれよ〜」
白い群れが見えなくなるまで、いつまでもいつまでも海を見続けていた男が、肉眼でその群れを捉えられなくなってからそんな言葉を漏らす。
たったの一つでもかまわないから、彼に届きますようにと思いながら。
「さぁーってっと!なるべく早くあそこ行けるように頑張りますか!」
大きく伸びをした先、雲一つない空は、どこまでもどこまでも、限りなく青く広がっていた。


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