成田さん(首と橋)

□ある晴れた日の停戦
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空はこんなにも蒼いのに、どうしてこんなことになっているのだろう?
折原臨也はそんなことをぼんやり考えながら、目の前の相手を見ていた。
視線の先には存在自体を認めたくない程嫌いな相手、平和島静雄がいる。奇妙に折れ曲がった道路標識を肩に担ぎながら。
「ねぇ、シズちゃん。君が怪力なのは昔から知ってるから今更驚かないけどさ、どう考えたってソレは無理があるんじゃないの?落ちてたわけじゃないんだよ?セメントで埋められてたんだよ、下の方は」
「イチイチうるせーんだよ、イザヤァ。手前は黙って殴られてりゃいいんだ」
口だけ笑い、全身で怒りを表す静雄が、一歩臨也に近づく。
――鬱陶しいなあ
理不尽な言い分に腹を立てるわけでもなく、ひとつ溜息を溢した臨也はポケットに手をいれナイフの柄に手をかける。
今日は久々に割のいい仕事が入って懐が温かいため、臨也は少し機嫌がよかった。
早く家に帰ってのんびりしたかったのだが、池袋での仕事だったため運悪く静雄と鉢合わせてしまったのだ。
気分は一気に急降下。最低ラインにまで降下した。
――いいかな、殺っちゃっても
そんな物騒なことを思いながら、手にはすでにナイフが握られていた。その鋼の輝きを見て、静雄は挑発的な笑みを浮かべる。
臨也がだっと駆け出せば、静雄が標識を振り下ろす。
「…………………………」
瞬間、標識に光が反射して眩しさを感じた臨也は、後方に飛び退き間合いを取った。
そうして空を見やる。
――ああ、空はこんなにも蒼いのに
すぐさまもう一度攻撃を仕掛けてくるものと思い込んでいた静雄は、やる気なく空を見上げる臨也に肩透かしを喰らったのか、眉間に皺を寄せる。
「おい、臨也」
「なあに、シズちゃん」
名前を呼んでも、相変わらず視線は空を見つめたまま。
「どうしたよ」
常とは違う臨也の反応に、若干の気持ち悪さと居心地の悪さを感じた。調子が狂う。
「別に」
数秒間を開けて臨也が言葉を返す。
「ただ、空が蒼いなあって思ってただけ」
「…………………………」
つられて静雄も空を見る。
雲ひとつない晴天。
「……………………やめた」
呟くように告げると、その場に標識を投げ捨てる。まるで飲み終わった空き缶を投げ捨てるような気軽さで。
「何を?」
標識が地面と激突した強烈な音に、ようやく臨也の視線が静雄に戻る。
意外そうな顔で見てくる臨也に背を向け、バーテン服を着た静雄はポケットに両手を突っ込みそのまま歩き出した。
「あんま天気いいから殺る気失せた」
臨也の耳に聞こえてきたそれは独り言だったのか、それとも聞かせるものだったのか。
ただ、どっちにしろ、臨也には大した問題でないのは確かだ。
「……………………本当に、いい天気だよねえ」
ナイフをポケットに戻すと、臨也は自分の住まいに帰るために歩き出した。
静雄とは正反対の方向へと。


END


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