コンクール

□君がいるから
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「ローレッタ様、あの者の処罰はどう致しますか?」
「あの使用人の事?」

 ローレッタの前に膝をついていた魔女は、その言葉に顔を顰めた。
 処罰した者の数が多すぎて、誰の事だかわからないのか。
 だけどそんな事言えない。口答えをすれば自分が処罰され兼ねないから。

「…はい」

 ただ頷いて、呟いた。
 するとローレッタは扇を開いて口元を隠すと、考え込む。暫くして何かいい事を思いついたようで、不気味な笑みを浮かべた。

「そうねぇ…鏡が欲しいわ。私の事をずーっと『美しい』と言ってくれる」
「…承知致しました。」

 魔女は立ち上がると、その場を去った。






 彼は、使用人のひとりだった。
 初めて見たのは廊下で。

「こんにちは」

と私が言うと、彼は、

「こんにちは、エメリア様」

と返した。
 使用人やメイド達はみんな「おはようございます」「ご機嫌はいかがですか」と体を強張らせながら堅苦しい言葉を言う。それが私は嫌いだった。もっと気軽に、友達みたいに接してくれて構わなかった。
 だから余計に会釈をして横を通り過ぎただけの彼を新鮮に感じた。


「ねぇ、あなた何て言うの?」
「え?」
「名前よ、名前」

 名前が聞けたのは、会ったのが二度目だった日。その日も廊下で、前方に見えた彼に駆け寄り、彼は驚いていたけれど気にせず訊いたのだ。

「リト、です。リト・フェアリア」

 リトと名乗った彼は、ニコッと笑う。
 私はその笑顔に少しどきりとして慌てて笑顔を返した。
 それから、彼とは他の使用人やメイド達よりも親しくなった。話もよくしたし、一緒に歩いたりもした。

「リト、私のことは友達くらいに思ってくれていいんだよ」
「それはいけませんよ、エメリア様」
「どうして?」
「あなたは王女なんだから」

 そうは言っても、彼は確実に少しずつ敬語がはずれてきていた。だけど、完全じゃない。そうしなければ、彼がどう言われるかわからないから。

 だけど、私は少しがっかりしていた。
 彼のその朗らかな笑顔や、風に揺れる茶色の髪、翠玉の瞳に優しい性格……私は知らないうちに彼に惹かれていっていたから。
 会う度に、触れる度に、鼓動はどうしても早くなってしまい、それが『恋』だと気付いたのは大分後だった。

 そんな矢先に彼は消えた。
 彼がいたのはたったの一年だけ。
 誰も、彼がどこに行ったのか知る者はいなかった。
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