救う者の話

□あの人に会えなかったら
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例えば、僕がマナに会えなかったら、僕はまだあんな目をして生きていたんだろう。






それはきっとあの人に会えたのと同じ。











「こんモヤシが!!」
「アレンだっつてるでしょう!!このパッツン!!」
今日も僕等は喧嘩。大抵その舞台は食堂だった。
どうしてこんなにもいがみ合うのか、人当たりがそんなに悪くないと思う僕がこんなにも大声で喧嘩するなんて殆ど無かったのに。
「今日もまた喧嘩さあ」
「若いの。」
ラビとブックマンがそう言って、僕等の後ろの席に座った。
「別に僕は悪くなんかないです!!神田がいつだって突っかかってくるから僕は仕方なく、応戦してやってるだけです。」
「何だと!?てめえが、俺にわざと水をぶっかけるからだろうが!!」
「あれは偶然だと何度言えば分かるんですか!?それに謝ったじゃないですか!!まだそんな事に腹を立ててるんですか!?心狭いですね!!そんなんだからみんなに怯えられちゃうんです!!」
なんだかきりがないように思えてきて僕はそっぽを向いてラビの隣に座った。神田もやっと自分の席に着く。
「やっぱアレンらみてるんが朝の一番の楽しみさぁ。」
「何でですか?喧嘩なんか見てて楽しいですか?」
僕はマンゴープリンを掬って口に運びながらラビに聞いた。
「いや、なんて言うか。お前らのそういう一面が見れるのってお互い喧嘩してる時ぐらいさ。それが新鮮でなんっか面白ぇっていうか。」
「そういう一面って?」
「いやなんて言うかさ、その子供っぽい感じがさ、するんだよ。お前らが喧嘩してると。なんかある意味一番そん時が素直だぜ、お前ら。」





自室に戻って少しだけ考えた。
『ある意味一番そん時が素直だぜ、お前ら。』
素直、か。
口が悪かったころを思い出してみる。
あのとき、僕は正直死んでいるも同然だった気がする。苛められるわ、痛めつけられるわ、左手は動かないし、異形だし。
それがマナに会えてどれだけ救われただろう。
それは計り知れない。
あの頃と全く違うしゃべり方をするけれど、やっぱり口は未だに悪いらしい。
それを素直と呼べるのなら、そうなんだろうか?
いやいや、神田の前で素直だなんてなんだか癪な気がする。


・・・・・・だけど、神田と口げんかしているときが、ほんの少し、ほんの少しだけ楽しいと思えるのはどうしてだろう?



・・・・・・・・・・・・。




それは、素直になれるから、だなんて誰にもましてや神田になんて言えない・・・・・・。
 

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