恋歌文

□クリスマスだから
1ページ/10ページ

 仕事の最中、急に騒がしくなった――様な気がした。
曹丕の居る課長室は別室となっていて、磨りガラスで囲われている。
その向こうで何やら課長代理――陳羣の慌てた様な、戸惑った様な声が聞こえて、

「少々、少々お待ち下さい」

 彼にしては大きな声。
その後何やら揉み合い始める。
くぐもって明瞭には聞こえないが、「心の準備が」とか「お止め下さい」などという謎のやり取りが聞こえる。
陳羣の一大事かと顔を上げた曹丕が次に見たものは。
バンという大きな音と共に開け放たれたドアと、真っ赤な服を身に付けた何か。


さしもの曹丕も――固まった。
真っ赤な服を着た――何かが居る。


曹丕は正直、理解したくなかった。
全く以て見慣れない真っ赤な服を来ているのは、彼の実父の、ついでに言うと社長の曹操である。
頭には真っ赤な帽子。
ご丁寧にその先端に白いふわふわの玉がぶら下がっている。
厳しい顔をしているのはいつもの通り。
そしてまたご親切に真っ白な大きい袋を肩から下げているのは――最早疑い様も無く――サンタクロース。
サンタクロースの格好だろう。


サンタクロース


その時点で曹丕はどうしても上手く思考回路が繋がらなかった。
仕事中である。
自分が仕事中であるという事は社長である曹操も仕事中の筈だ。
だが目の前にサンタクロースの格好をしたその社長が居る。
どういう意図かも何が起こっているかも全く分からない。
そもそもやっぱり理解したくない。

「………あの」

 たっぷり間を置いて漸く発した一言に、曹操は「うむ」と力強く頷いて、

「メリークリスマス!」

 ドヤァア!
実に良い顔をした曹操と、その後ろからとぼとぼと赤鼻のトナカイの着ぐるみを着た夏侯惇を見て――ついに曹丕は目の前が真っ暗になった。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ