BOOK

□半田依存症
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「せ、ん、せ、い」

いつからだろう。
皆の"先生"という呼び方が気になるようになったのは。
皆があの人の事を先生と呼ぶ。

先生は俺の先生なのに。

まぁ俺の先生というと少し語弊が生じるが、要するに俺のものだ、ということだ。
胸の奥にもやもやしたものを感じ、このような事でも嫉妬するのかと、自分の乙女心が嫌になる。


「先生」

「なんだ?」

「せんせ」

「おう?」

「ジュノン武男」

「怒るぞ」

「半田さん」

「は?だから何だよ?」



「清舟」



清舟、と呼んだら心なしか反応が違った気がした。



「清舟、」

「えっ、なに…?どうしたんだよ」

「俺清舟っていう響きすげえ好き」

「そうか?」

「綺麗で先生にあってるよ」


流れるような響きが美しくて先生にぴったりだと思う。
いまだに疑問符を頭に浮かべている先生がとても愛おしく感じられた。


「清舟可愛い」

「そんなこと言って大人をからかうんじゃありません」


勿論からかってなどない。
先生は誰から見ても可愛いと思う。


「てかなんで急に清舟なんて」

「…嫉妬」


嫉妬?
と先生はわからないといった表情を浮かべ首を傾げている。
それは先生が何かをしたという訳では無いから当然なのだが。


「皆が先生を先生って呼ぶから」

「なんだそれ」


ほんとに自分でも思うよ、と呟き先生の方を見ると、これまた美しく微笑んでいた。


「先生にやけてるよ」

「えっうそ」

「ほんと」

「嫉妬されんのってなんか照れるけど嬉しいな」


え…


「…いつもは俺が嫉妬してばっかだからちょっと嬉しい、かも」


少し照れくさそうに笑い頭をかく先生。


「いつも嫉妬してるんだ」

「まあな」

「美和とかタマに?」

「あとなるもかな、しょっちゅう構ってもらってるし」

「ふーん」

「なんだよ」

「いや、可愛いと思って」

「ばか」

「おまえがな」


お互いに少しのことで嫉妬するなんて。
それはもはや嫉妬がどうのというより依存だな、なんて。


「そんな清舟さんに提案があります」

「はいヒロシくん何でしょう」

「二人のときは清舟ってよんでいいか?この島で清舟なんて呼んでる奴いないし」

「うーん…清舟だとちょっと距離を感じる」

「そっか」

「だけど俺の事を清って呼ぶ人もいないぞ」

「それ自分で言ってて悲しくない?」

「うるさいよ!」

「じゃあ清って呼ぶ」

「う、うん」

「…なんだ照れてるのか?」

「照れてねー!」

「はいはい」

「こいつ…ガキのくせに…」

「せい」

「なっなんだよ」


耳元で好きだと囁くと、知ってる、と言ってそっぽを向きながら俺の手をにぎりしめてくる。
なんでも可愛く思えてしまう俺は半田依存症なのだろう。
いつもと違う呼び方をしたり、されたりして照れるなんてお互い子供みたいだ。
俺は先生の手を握りかえしていつもより少し高めの心地よい体温を感じることに専念するため目を閉じた。


こんな時間がいつまでも続きますように。





end


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