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□いっぴきぼっち
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分かるかな?分かるかな?
君には分かるかな?
分からないよね?
だって君なんだもん、分かるはずがない。


俺が呟き零したこの言葉の意味、分かるはずがない。





なんで図書委員なんかになってもうたんやっけ。
貸し出しカウンターの傍に用意された委員専用という名目のただの折りたたみパイプイスに腰掛け、カウンターに行儀悪く肘をつきながらため息。
夕方、日が暮れてカラスが太陽に向かってカーカー言いながら飛んでいく。
どないしてカラスが啼くんかと聞けば、おふざけと分かっとる奴はカラスの勝手て言う。
けど俺は、ホンマにどないして啼くの?と人間の言葉が通じるんやったら聞いてみたいと本気で思うた。
図書委員になった理由はただ単にお笑いのDVDのためやったんやっけ……もっと他に理由あらへんかったのかな……。
あーあ、どないして委員会に入ってもうたんやろ……早よ部活行きたいわ……。


人数も減ってきて、あともうちょい減れば誰も居らんくなる。
あと少しで俺一人きり。
意外にも広い図書室で独りぼっち。
本棚と、差し込むオレンジ色の日差しと、クリーム色のカーテンが風に揺れて。
その中で俺が『ひとりぼっち』になるまで、あと少し。


「…………」


パイプイスから立ち上がって、窓辺に歩み寄る。
太陽で少し暖められた窓ガラスに手を当てて、外の景色が眩しすぎて目を細めた。


カラスが遥か遠くの山へ飛んでいく。
それはなんだか、逃げていくようで。
大好きな町が紅に染まっていく。
それはなんだか、とても悲しくて。


「あっ……」


少し視線を下に向ければ、夕日色に染まった校庭。
そこから少し視線をずらして、すると見慣れた黄色のボールが打たれてパコーンてええ音が聞こえた。
ええなぁ、俺も早よあそこに行きたい。
あそこに行ってジャージに着替えてラケット持って、そんで謙也さんとダブルスして点決めたらハイタッチとかして……とか思うとったら、謙也さんみっけ。
見たところシングルスの試合形式練習らしくて、謙也さんがボールを高く高く空へ投げあげた。
サーブを打つ、スライスで返ってきた。
回り込んでフォアハンド、スマッシュが来る。
その直前に自慢の速さでネットに辿り着いてボレー。
点数を取られて渋っとる相手に対して、ガッツポーズの直後、こっちに向かってラケットを持ったまま俺に手を振る謙也さん。


……え?


気のせいかと何度も思うたけど、間違いなく謙也さんはこっちを見とって。
おいおい、ここ三階やで?
窓を開ければ風が図書室内に飛び込んできて、それと同時に謙也さんの声も聞こえた。


「ひーかーるー!早よ来ぃやー!」


やっぱ間違いなく謙也さんは俺を呼んどって、恥ずかしさよりも嬉しさが胸に広がってく。
謙也さんが呼んでくれた……!
ちゅーか、俺んこと見つけてくれた!
嬉しい……めっちゃ嬉しいっ、謙也さん!
呼んでくれた嬉しさのせいで、潜めた想いが顔を出してきた。
あーあ、俺重症患者やなぁ。
謙也さん大好き症候群重症患者。


今行きます、そうやって大声で叫ぶんはさすがに恥ずかしかったから謙也さんに見えるように手を振ってから窓を閉めた。
気がつけば、とうの昔に俺は『ひとりぼっち』になっとった。
気付けなかったのは、あなたが眩し過ぎて周りが見えなくなっていたから、だなんて後付の理由を言わせてください。
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