捧げ物

□伝えたかった言葉は
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いつか、アナタに言いたかったこと。
確か、これで全部だと思うけど。



多分、まだたくさん出てくる。
置き去りの想いを、未練がましいけど、伝えたいな。














(あれ……?)



学校が変わった。
先輩らが、消えた。



俺の頭をめちゃくちゃに撫でくり回してくる謙也さん。
やたらと絡んでくる小春先輩とユウジ先輩。
千歳先輩も師範も小石川先輩も。
優しく微笑んで、俺を呼んでくれる白石部長も。



いない、いない、いない。



どこに行ってもうたんやろ。
伝えたいことがあるんに。
特に、白石部長には、たくさん。
俺は、何も伝えてへんのに。
どうして?どうして居らへんの?



「白石部長……どこ……?」



部長の教室に行こうと階段を下りても、教室自体がなくて。
まるで、知らない場所に迷い込んだように。
独り、から回ってる。



もしかしたら、保健室に居るのかも。
せや、よく保健室に居るって言うとった。
淡い期待を胸に、保健室へと歩く。
自然と足が速なって、保健室と記されたプレートが見えた途端に走り出した。



あそこに居るんや。
だって、調べてへんのはあそこだけ。
部室にも教室にも居らへんかった、せやから……!



走った勢いをそのままに、保健室の扉を開け放ち、中へ飛び込む。
気がつけば肩で息をしとって、それでも構わへん、ぐるりと無人の保健室内を見回す。



窓の隙間風に揺れる真っ白のカーテン。
包帯や薬といった、備品が入ってる棚。
綺麗に畳まれた毛布が乗っとる簡易ベッドが2つ。



あんなにも探してた人は――白石部長は、いない。



「っ……なんで……!」



なんで、居らへんの?
身体中から力が抜けて、へたり込む。
床に、何かが落ちた。
それは透明で、とても綺麗で。
けど、涙やって気づいたら、そんな気持ちは消えた。
消えたっちゅーより……押し潰された。



なんで?
俺、なんにも伝えてへんのに。
この気持ちを、伝えてへんのに。
なんで、居らへんの?



いない、いない、いない、いない、いない。



いない、いない、いない、いない、いない!!



「……やっと、気づいたの、に…っ……!」



好き。
白石部長が、好き。



やっと気づいた、愚かな俺は、やっと気づけたんです。
でも、もう遅くて。



なんで、白石部長や先輩らが、学校から消えてもうたのか。
理由なんて知っとる、分かっとる、それでも納得したくなくて。



俺は、学校をさ迷っとる。



「白石、部長……大好き、大好きです、大好き……!」



ここに居らへんアナタへ。
アナタがよくいた、この場所に、たくさんの大好きを残しました。
涙と同じくらい、たくさんの大好きを零しました。



けれど、ダメでした。
口にすれば口にするほど、想いは募って。
アナタへ贈りたい言葉が多すぎて、押し潰されてまう。



「だい、すき……大好き、大好き…っ……白石部長、大好き、です……!」



喉が痛くなっても、もう涙が出なくなっても。
それでも俺は、壊れたように大好きと言い続ける。
けど、この言葉がアナタに届くことは、あらへんのでしょう?



ユニフォームを身に纏ってコートの向かい側に立つ姿も。
「財前!」と俺を呼ぶ、透き通った声も。
柔和に微笑する白石部長は、もう学校には居らへん。



だって………

















部長は、俺だから。

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