捧げ物

□Wonderful Word
1ページ/1ページ

【愛してる】って、ステキな言葉。
この気持ちを、全部込められるから。







メールの作成画面を開いて何分経ったんやろ。
内容は白紙のままで、文字を推す親指はフリーズ。
正直言って、俺は頭抱えとった。



「なんて、書けばええんやろ……」



メールを送る相手は、部活でダブルスの相方になった謙也先輩。
今日から一緒にダブルス組むことになった俺らは、お互いにメアドを交換した。
入学したときから気にかけとった先輩やから、俺には、先輩に近づく絶好のチャンスやった。



これで、もっと仲良ぅなれる!
と、内心喜びまくっとった俺は、



『今日の夜、メールしますから』



て、緩む頬を隠そうともせずに言うた。
けど、先輩にメール送るなんて初めてやし、何て送ればええか分からん。



「『今何してます?』、とか?いやいや、聞く必要あらへんやろ。
 『ダブルス組めてマジで嬉しいっすわ!』って、うわわわわ、恥ずい!キャラちゃうやん!!」



ああああああ、たかがメール一通で何でこんな悩んでんねん、俺!!










この気持ちがいつから芽生えたものかなんて分からん。
ただ、ちょっとした気遣いとか仕草とかが、いつの間にか気になっとって。
頭撫でられたり、肩組んだり、それだけで、どうにかなってまいそうで。



謙也先輩も俺も男で、世間一般には認められない。
それくらい、分かっとる。
けど、想うだけなら罪はないから。



「……『今、どうしてますか?』」



聞きたいことを、メールに打ち込む。
ゆっくり、ゆっくり。
自分自身の想いを、噛みしめるように。



「『今、なに考えてましたか?』」



俺のコト考えてくれとったら、嬉しい。
メールまだかなぁって、待ってくれとったら、幸せ。



「『好きな人、いますか?』」



三つ打ち終えて、そっと実感した。
俺、ホンマにあの人に【恋】しとる。



都合のいい返信を想像して、心臓の鼓動が耳に響く。
今こうしとるだけでも、先輩の声が聴こえてくる気はした。



「……『愛してます』……」



この想いの全てを伝えてくれる一言。
ただこれだけを伝えることができればええのに。



女子が羨ましい。
だって、正直に話せるやんか。
恥ずかしいかもしれへんけど、俺なんかよりうまくいく可能性・大やん。
男の俺なんかが告ったって……。
あっ、あかん。自虐的になり過ぎて気分落ちてきたわ。



「はぁ……後で書き直そ……」



そう思うて、ため息ながらに消去ボタンを押した。
ピロリン♪て音が鳴って、「ん?」と思って画面を見ると、






≪メールは送信されました≫






……なんや、メールって。
えっ、送信されました?
まさか、あのメールが?謙也先輩に?





「ええええええええええ!!?」





廊下でおかんが「うっさい!」て言うたけど、それどころとちゃう。



う、嘘や!だって、押したのは消去……ああ、間違うて一つ上の送信ボタン押しとる!
なんでこんな時にドジやねん、うわあああ、どないしよ、どないしよおおおお!!



顔を両手で隠し、ゴロゴロとベッドの上で転がる。
やばい、謙也先輩に引かれてまう!
ダブルス解散?嫌や、絶対に嫌や!!



≪I am waiting for him who is loved by me――≫



聞き慣れた洋楽にピタッと動きを止め、恐る恐るケータイを開く。
謙也、先輩……電話や。
通話ボタンを押し、耳に当てる。



「も、もしもし?」



『あっ、財前?なんかさっきメールきたんやけど、』



うわあああ、ばっちり読まれとる!!



「き、気にせんでください!曲の、歌詞なんすわ!
 メモとメール間違うて、そんで、送ってもうて……」



『そうなん?』



「せやから、その……ダブルス解散とか、言わへんでください!」



『あはは!そんなこと言うワケあらへんやん!
 俺が白石に無理言うて頼んだんやから』



「え?」



『こっちの話や。にしても財前、ずいぶんロマンチックな歌詞やな〜、意外』



「余計なお世話っすわ。先輩かてそれくらい聴くやろ」



『ん〜、どうかな〜?』



そっから話ははずんで、なんや気分がふわふわしとった。
内容なんてどうでもいいことだらけやし、くだらない。
けど、面と向かって話しとるのと同じくらい楽しい。
気づけばいつも寝る時間になっとって、今日一番の欠伸がでた。



『もうこんな時間か……そろそろ、終いにしよか』



「ん、そっすね」



終わってしまうんが惜しいけど、睡魔は遠慮せずに襲ってくる。



『あっ、せや!財前、明日一緒に学校行かへん?』



「へ?」



『やーかーら!俺と財前、一緒に学校行かへん?』



「えっ、あ……」



俺と謙也先輩、二人で学校に?



『あー……嫌か?』



「全然!全然嫌とちゃいます!!」



大きく首を左右に振る。
目の前に相手がいなくても身振り手振りをしてまう、日本人の癖や。



『ほな、明日の朝迎えにいくから』



「はい、了解っすわ。おやすみなさい、謙也先輩」



『おやすみ……光』



光。
名前を呼ばれた、それだけで俺は放心状態になってもうた。
ケータイの方は通話を終えて待ち受けに戻っとる。
ベッドに倒れこんで、熱い頬を枕に埋める。



加速する鼓動が伝えてく。
熱を、高鳴りと、俺の想い。



……あかん、どないしよ。
明日は早く起きて準備せなあかんのに。
謙也先輩、俺、アンタのせいで寝不足になってまうわ。








【愛してる】、そう、アンタのこと。
これから先の長い間、ずっと言えへんと思う。
だから今のうちに謝っておきますわ、すみません。
けど、最後はアンタの隣に立てるよう、精一杯走ります。
そんで、この気持ちを込めた言葉を送るから。



勇気だすから、そこでじっとしとってください!

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ