短編

□俺のペットを紹介します。
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こんにちは、謙也です。
医学大に通ってる20歳、アパートで親元を離れて暮らしてる。
そんな一人暮らしの俺が飼ってるペットは少し……いや、かなり変わってます。







「けーんーやーさーん!腹減りましたー!」


「ちょお待ってや、今作っとるから」


リビングから俺を呼ぶ声が、空腹を訴える。
鍋でぐつぐつとシチューを煮込みながら返事をし、ちらっと声の主を見る。


可愛え俺のペット・光は、テレビの前で胡座をかいて飯を待っとる。
シチューの匂いに気づいたんかも、尻尾が揺れた。
耳も、よくよく見れば前後にぱたぱたと動いてる。
真っ黒でつやのある尻尾と耳。
本来、人間にはないもの。
けど、光は半獣やからそれがある。


元々、光は捨て猫(?)やった。
俺が拾ったときはまだ小さくて、今にも死んでまいそうで。
俺はそれを放っておけるほど薄情やなかった。
どうせ一人暮らしや、彼女なんて居らんしええよな!
言い訳がましいこと言いながら、まぁとにかく、そんな感じで拾った。


色々大変なこともあったけど。
好き嫌いは多いし、意外と美食家やし、毎日ぜんざい一日に一個はやらんと拗ねるし。
……その、発情期とか?あるし……。
いや、迷惑っちゅー意味とちゃうで!?
枕にぱたぱたって耳震わせてする吐息とか、腕にさり気なく絡ませてくる尻尾とかめっちゃ可愛えし!
って、何言うてんねん俺は!
まぁ、朝に起きれんくなるのが辛いんやけどな。


「おおお、うまそう!」


シチューを皿によそってリビングに持って行けば、すでにテーブル前で準備しとる光。
シチューを見ての第一声や、耳がしきりに動いとる。
俺もスプーンを光に渡してイスに座る。


「いただきまーす」


両手を打ち合わせ、早くもスプーンを手に取り一口。


「ちょっ、フーフーせんとまだ熱い――」


遅かった。


「あづっ!!」


舌先をやけどしたらしい、光が床に転げ落ちる。
そりゃ、熱々のシチューにフーフーもせんで舌付けたらやけどするわ。
しかも光は猫舌やから余計に。


「あーあ、せやからいつもフーフーせぇ言うとるやろ」


「〜〜〜〜〜ヒリヒリする……」


「ちょお待っとれや、今、氷水持ってくるから」


声こそ平然としとるけど、俺は内心パニクってた。
やって舌のやけどってしつこいやん!
コップいっぱいの氷水を渡せば、チロチロと舌先を水につけとる。
真っ赤な舌先が透明な氷と氷の間をチロチロって……はっ!
あかん、何変なこと考えとんねん俺ええええ!!


「うう〜、熱かったっすわ」


それしか言わへん光はちょお涙目で、また変な気分になりそうで俺は慌てて視線を逸らした。


「あっ、もっと氷持ってくるな!」


「いや、それはもうええです」


「せやけど熱いんやろ?痛なるし、もっと冷やしたほうがええって」


「大丈夫っすわ、もう熱くないし。
ちゅーか、冷やし過ぎて舌の感覚あらへん」


「でも、」


冷蔵庫の氷の残量なら全然気にせんでええ、そんなんより光のほうが大事やねんから。
なおも言おうとする俺の声を、光が遮る。


「やーかーら、もう十分冷たいんですって」


やや乱暴気味に光は俺の服の首襟を掴み、光は首襟を掴んだまま手前に引っ張った。


「わっ!」


思いっきり前にバランスを崩し、そのまま強引に口付けされる。
突然過ぎて呆けたけど、冷たい舌先が唇に触れた瞬間、ぞわって全身鳥肌立ったわ。
冷たっ!


「んっ……謙也、さん……」


ちょっと離れた光の唇の端から聞こえた、切なそうな声。
それを聞いた瞬間、ぷちんって何かが切れる音がした。
グッバイ、俺の理性。


「光……堪忍やで」


「ん、んんっ!?」


光の背に腕を回し、より体を密着させる。
薄く開いた唇に舌をねじ込んで、光の冷たい舌と絡ませる。
舌を絡めて、歯列をなぞって、下唇を吸って。
何かするたび、ぴくぴく耳が動いて可愛え。


「や、ぁ……ふぅ、あ、ん……!」


鼻にかかったような声が、さらに欲情させる。
でも光は限界らしく、俺の腕に絡みついてた尻尾から力が抜けてく。
……そろそろ終わったるか。


長いキスから解放したれば、紅潮した頬のまま涙目で俺を見つめてくる光。
……あかん、やめて。
そんな目で見んで、我慢できなくなる。
バイバイした理性が帰ってきてくれたんや、このまま流れてヤったらあかんで。


「謙也さん……」


「な、なんや?」


服の裾引っ張ってくる光に、つっけんどんに言い返す。
ああああやめてや、その可愛え尻尾を俺の腕に絡めないで!
悲しそうに耳垂らさないで!
そんな物足りなさそうな目せんで!


「謙也さん……」


光は震える声で俺を呼びながら、尻尾を絡ませてへんほうの腕を掴む。
そんで、俺の手を自分の胸に当てた。


「もっと、触って?」


あぁ、なんて理性クラッシャー。
結局、俺の理性なんざ薄っぺらいもんで。
この小悪魔猫の前では紙切れみたいなもんで。
今度こそさよならや、理性。


あ、シチュー冷めてもうたな。
頭の片隅でそんなことを思いながら、光とたっぷり愛し合った。


で、また今日も遅刻や……。
この性悪猫に勝てる日なんて、きっと来ない。
ま、来なくてもええけどな!

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