短編

□maybe story〜未来の君へ〜
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拝啓?敬具?どっちやっけ、まぁええわ。
謙也さんへ。


ご結婚おめでとうございます、顔を出せなくてすみません。
せっかくの式に参加できないのはとても心残りで悔しいです。
まぁ、俺のことやからアンタの晴れ姿みたら笑うけど。


朗報の手紙を受け取ったときは驚きました。
謙也さんのくせに、こんな美人な人が奥さんやなんてずるいわ〜。
俺は結婚する予定なんざあらへんし、それ以前に結婚せぇへんと思います。


二人でひたすらテニスボールばっか追いかけとったんが懐かしいです。
あの時は無我夢中で、時間はあっという間に過ぎてってまいました。


これからは、新しい奥さんの為に献身的に尽くしてやってください。
どうせ、今もスピードスターとか言うてるんでしょ?
なんかアンタのことやから子供にもそう言って教え込みそうやわ。
スピードスターが奥さんから離婚切り出されへんよう祈ってやりますわ。


それじゃこのへんで終わっておきますわ。
ご結婚、おめでとうございます。


締めの言葉が分からへん、どないしよ。
かわええ後輩より。







「……なんやねん、これ」


「…………」


正座しとる俺を見る謙也さんの目はぽかーんとしとる。
そらそうやろな、恋人の家に遊びに来て、机の上みたら未来のアンタ宛ての手紙なんやもん。


包み隠さずに話せば、その手紙は国語での宿題や。
将来の誰かに向けて、手紙を書くっちゅーやつ。
その誰かっちゅーのが謙也さんで、内容が謙也さんの結婚式。


俺は無言で、床に転がる鞄を見る。
それしかできへんかった。


やって、それはいつか本当に来てまうかもしれないこと。
俺と謙也さんが別れずに一生一緒におるなんて、誰が保障できるん?
誰もできない、未来を知らない限り、そんなことは不可能や。


せやから、俺は手紙を書いた。
謙也さんのことやから、きっと綺麗な嫁さん貰えるわ。
白いタキシード着とる謙也さんと、純白のウェディングドレスに身を包む嫁さん。
それが当たり前で、でもそれが悲しい。
俺は完全におかしくなってる。
謙也さんが俺と付き合ってくれとることすら、気の迷いかも知れへんのに。


「なんで、結婚式……?」


「人間、死ぬまでには結婚するもんとちゃいますか?」


泣いたらあかん、なんで当たり前のことで泣かなあかんねん。


そのまま俯いてもうた俺は、謙也さんの目にどう映ったんやろ。


しばらくの沈黙の後、謙也さんは小さくため息をついて原稿用紙の裏に何か書き始めた。
後ろから見ても分かるほどの走り書きで、俺の手紙の裏に書いてく。


何書いてんやろ……。
手元を覗き込もうと身を乗り出したと同時に、謙也さんは書き終わったんか紙を俺に突き出してきた。


「これ、読んで」


「は…?」


「俺からの返事」



謙也さんは至って真面目な表情で、俺にそれを押しつけた。
ワケ分からんくて、とりあえず受け取って裏に走り書きされたものを読む。







拝啓省略
かわええ後輩へ。


祝辞の手紙ありがとうございます、来てもらえないのがとても残念です。
我ながらめっちゃ美人な奥さん貰ってもうて内心浮かれてます。
お前にやる気はないけどな。


惚気て言われるかも知れへんけど、奥さんのこと紹介します。
俺の奥さんは、はっきり言うてめっちゃツンケンしとります。
素直やなくてムスッとしとって、いつも機嫌が悪そうです。


でも、俺はそれが照れ隠しだと分かってるから構いません。
むしろ、素直じゃなくて、それでもたまに見せてくれる笑顔とかめっちゃ大好きです。
俺を「謙也さん」て呼ぶ声とか、ちょお傷つくけど「うざいっすわ〜」とか言う声も。
全部奥さんやからこそ許せるもんなんやと思うてます。


式に来ていただけないのは残念ですが、お体に気を付けて。


俺の奥さんは、旧姓【財前】。
明日からは【忍足 光】になります。
男とかそんなん関係なく、俺は光を愛してます。


締めの言葉省略
忍足 謙也







「っ、この、かっこつ謙也が……」


「おー、俺はかっこつけやで?そんな奴好きになったんも、光やろ?」


確かにそうだ。
好きになったのも俺、告ったのも俺、キスを迫るにしろ何にしろ、全部俺からだった。
だからこそ、俺はこんな手紙を出すほど不安になってた。


こんな手紙が何を意味するのか。
不安、焦燥、見えない未来への恐怖。
それらに慣れようと、意味もないのに慣れようと、こんな、くだらないことを。


「…………謙也さん」


「ん?」


「こんな手紙出したこと、後で後悔せんでくださいよ?」


「なっ!?こんな手紙とはなんや、俺の全身全霊の想いを込めた手紙やぞ!」


「…じゃあ、その全身全霊の想いに甘えて、これからもワガママばっか言うたりますわ」


そう言うて、俺はプッと吹き出してもうた。
全身全霊の想いは、俺にはとても嬉しすぎて。


きっと俺は未来永劫、こんな手紙を書いたことを後悔すると思う。
謙也さんを疑ってしもうたんやから。
大好きだから?誰よりも傍にいてほしいから?
そんなん、理由にはならへん。
せやから、俺は【ワガママ】という鎖でアンタを縛るんや。


それを言うたら、謙也さんもプッと吹き出した。


「不安なら言いや、光のワガママはレベル高いから大変やし」


「あれ?『奥さんやから許せる』とか書いてませんでしたっけ?」


「ぐっ……分かったで」


「ほな、初●ミクAppend初回フィギュア・ア●メイト限定特装版二つ。
 あっ、一つは観賞用、もう一つは保存用っすから」


「おいコラ!ワガママ聞く言うたって、俺は雑用係とちゃうぞ!」







照れ隠しなんて、格好いいもんとあらへんけど。
いつも機嫌が悪そうで憎まれ口ばかり叩く俺は、今日も【ワガママ】を口にする。
その後で、お互いに笑い合えることを信じとるから。

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