メモ帳みたいなネタ帳

□cage
1ページ/1ページ

きっと、あなたがいるから。


俺はここにいるんやと、勝手なことを思うてみる。










ボーっと図書室のイスに座って、閉館時間になるのを待つ。
どういうワケか図書委員になってもうた俺は、放課後、こうして委員の仕事をせなあかん。
まぁ本借りてくヤツなんざ限られとるし、そんな長い時間仕事するワケやないからええけど。
けど、ずーっとボーっとしながら図書室眺めとるのも暇やねん。


受付のカウンターから離れ、本棚を漁る。
委員をやっとれば、生徒が借りていかへん本とかが一目で分かる。
俺はそういう本を読むんが好きやったから、また今日も人気のない本を手に取った。


それは薄っぺらい伝説を記した本、適当にペラペラとめくってく。
内容を読む前に、こうして大まかな内容を見てから読むんが癖やった。
そして、ある内容が俺の目に留まる。


「!……きんせんか……?」


読み進めて分かったことは、この本は花に関する伝説をまとめた物やっちゅーことやった。


太陽に恋をした少年。
日が昇れば踊り喜び、沈めば急に寂しくなる。
日の神も彼を深く愛し、二人の恋心は静かに育まれていった。
ところがある日、8日間も日の神が現れない時があった。
少年は会えない辛さに悶え苦しみ、次に日の神が現れた時には、すでに命尽きていた。
日の神は深く悲しみ、せめて思い出に、と少年をきんせんかに変えたのだという。


「きんせんかの花言葉って、何やったっけ」


一回、あの人から聞いたことがあるような気がした。
けど思い出せんくて、本を棚へ押し戻した。


窓を開けて、夕方の冷たい風を浴びる。
クリーム色のカーテンが緩やかに涼しげに揺れて、少し窓から身を乗り出す。
こうすれば、どこまでも遠くを見られる気がしたんや。


(ん……?)


フッと、何気なく向けた視線の先には、テニスコート。
……いや、更に言えば、テニスコートのベンチに座っとる、その人。


(はぁ……白石部長、遠くから見ても綺麗やなぁ……)


両手で頬杖をついて、白石部長を見つめる。
ホンマに、綺麗な人。
綺麗で、努力の天才で、俺が愛してやまない人。

その人に、女テニの部長が近づいてく。
むっ……。
男の俺が嫉妬するんもおかしな話やけど、女テニの部長は、なにやら白石部長の耳に口を寄せて囁いとる。
そんで白石部長は――笑うとった。


胸が痛い。


女テニの部長と、白石部長。
悔しいけど、どっちも美人で、並んで歩けば美男美女カップル。
そんなところに、俺が入り込む余地なんてあらへんくて。


(勝てるワケ、あらへん……っ)


悔しい。
どんなに足掻いても、もがいても、白石部長に恋しても。
男であるが故に、この想いを伝えられへんなんて。


(あーあ……思い出してもうた)


ため息一つ、窓を閉めてそこから離れ、他の戸締まりを確認して荷物を肩に掛ける。


(きんせんかの、花言葉)


ああ、こんな意味なら思い出さへんほうがよかったんに。
唇を噛み締め、口内に鉄の味を感じながら図書室の扉を閉めた。
鍵をかけて、職員室に鍵を預けへんとあかんから廊下を歩く。
見慣れた廊下が茜色に染まって、白い壁がまばらに輝いとる。
そんな色に染められながら。


独り、歩く道は寂しくて。


なんでやろ、さっき読んだ、きんせんかの伝説が頭から離れんかった。
なぁ、日の神に恋をした少年クン。
自分は、日の神と両想いやったんやろ?
せやったら、8日間くらい、我慢しろや。


想いが伝わることだけでも、嬉しいことなんに。
俺なんて、一生かかっても叶わへんような恋やのに。


両想いで、お互いに愛し合っとって、でも数日しなきゃ会えへん少年。


片想いで、お互いに男同士で、嫌でも毎日会うて悲しくなってまう俺。


ホントに辛いのは、どっち?










「……!っ、………で、」


職員室に鍵を預けてテニスコートに向かい、生徒玄関にさしかかったとき。
なにやら口論しとるような声が、二つ。
……誰やねん、生徒玄関で口論とか、迷惑やわ〜。
…………誰やろ。


好奇心旺盛な中学生の俺は、声のするほうをチラッと見た。
生徒玄関の、掃除用具入れで死角になっとるとこで。


白石部長と、女テニの部長が、口論になっとった。


思わず息を詰めて、その場に立ち尽くす。
な、なんで、さっきまで笑い合っとった二人が口論に……?


「なぁ、なんでなん?なんでウチやとあかんの!?」


「いい加減しつこいで!俺は自分と付き合う気はあらへん!」


……今のだけで、大体分かったわ。
つまり、女テニの部長さんが白石部長に告ったんやな。
けど白石部長はそれを断って、女テニの部長さんは、その理由が知りたい。
なんちゅーメンドい図式。
大体、今の白石部長の恋人はテニスや。
彼女なんざ、その邪魔になってまうに決まっとるやろ?
意外と頭悪いんやな、女テニの部長さん。


「なぁ、なんでウチやったらあかんの!?」


「っ……、ええ加減にせぇよ!」


白石部長がキレて、声を張り上げる。
ほら、しつこいんは嫌われるんや。
そんな、どこか楽観視しとった俺は、次の白石部長の言葉に愕然とした。





「俺には好きな奴がおんねん!!」





っ!!
胸が張り裂けそうになる。
好きな人。
白石部長が、好きな人。
女テニの部長さんをフるほどに、白石部長が好きな人。


女テニの部長さんにも勝てへん俺が入り込む余地が、完全になくなってもうたんや。


胸が痛い、痛い痛い痛い。
痛すぎて痛すぎて、涙が溢れてくる。


ガランッ――


突然の音に、体が跳ねる。
足元を見れば横に倒れたバケツが転がっとって、震えてもうた俺がバケツに足をぶつけたんは、一目瞭然やった。


「!誰や!?」


声を荒げた白石部長と目が合い、逃げるようにしてテニスコートまで走った。
涙を制服の袖で乱暴に拭ったせいで、目元が赤くなってもうたけど、それどころやなかった。





********************************************
無駄に長くなったから没!!(・∀・)クワッ
山場にいくまでが長くて諦めた蔵光、だって長いんだもの←

どうせ蔵→←光(笑)

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ