メモ帳みたいなネタ帳

□GALLOWS BELL
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アイツは、俺にたくさん笑顔をくれた。


アイツは、俺にたくさん愛を教えてくれた。


アイツは、どこまでも俺に優しかった。


それは俺にしか見せねぇ一面で、そのことを知りながらも。











俺は、この手で恋人を――財前を殺した。
















ゲームでは目にしたことのある刑務所は、思ってたよりも寒くてヒカリが届かねぇ。
鉄格子に囲まれて何もすることもねぇ、ベッドから離れて壁伝いにうずくまるだけ。
もう、いい加減この寒さにも慣れたな。
順応力だけはいい自分の体に、けど感心なんてしなかった。


財前を殺したこの体は、もう俺のもんじゃねぇ。


この体は、財前のもので。
逆もまた然り、財前の体は、俺のもので。


財前のものになった体を、膝を抱え込んで抱きしめた。




『なんで……!なんで光を殺したんや!?』




財前の死を悲しんで涙を流し、俺に理由を求めてくる、財前の先輩。




『赤也……それが、お前の決断なんだね?』




俺の行為を咎めず、死んでる目のまま世界を見る俺に問いかける、俺の先輩。


どっちも聞きたいことは同じ。
なぜ、俺が恋人の財前を殺したのか。
俺らは先輩らにだけそのことを伝えてたから、なおさら問い詰められた。


けど、理由を言ったとこで、何になるんすか?
この理由は、俺と財前にしか理解できねぇっすよ。
狂ってる俺を愛してくれた財前しか。
きっと、理解できなかった。














「やっぱ俺、狂ってんのかな?」




財前が遊びに来たその日、俺と同じようにコントローラーに握って画面を睨んでる恋人に、唐突にそう聞いてみた。
恋人は、きょとんとした面持ちで画面から目を離し、隣に座る俺を見つめた。
画面で、財前の操ってたキャラが残念な音で倒れてる。


「だってよ、財前が好きで好きでたまらねぇのに」


愛してるの言葉に偽りはねぇのに。
この気持ちにだって、財前に対する全てに、偽りはねぇ、それなのに。


「財前を、殺してぇ、なんて」


いつからか心に芽生えた確かな殺意は、他の誰でもなく財前に向けられてた。
笑顔を見るたび、ちょっとした喧嘩で泣かせちまうたびに。
その全てを俺だけのものにしてぇ、全て、いや、それでも足りないんじゃねぇか。


全てじゃねぇ、財前自身が欲しいんだ。


俯いちまった俺はコントローラーを投げ出して、後ろのベッドに、そのまま倒れ込んだ。
狂気の渦が、俺の中でぐるぐると俺を呑み込んでく。
それは、小さな感情だったはずなのに。
財前が好きだ、大好きだ、こんなにも愛してる、財前は俺の隣にいて、それでも満足できねぇ自分に腹が立つ。


そして財前は、俺に言ったんだ。
その言葉は、俺を突き動かすのに必要だった、小さな小さな麻薬。
だから俺は、財前の最期に言ったことを信じるだけ。
決して快感なんかじゃなかった。
それでも、狂ってる俺の望みは、こうして叶っちまったんだよな。












「被告人・切原赤也を、絞首刑に処す」


ほら、また一つ。
俺と財前の望みが叶おうとしてる。


裁判官の無慈悲な言い渡しに、一般席の先輩らが何やら叫んでる。
聞こえない、その声すら、もう俺の耳には届かねぇんすよ。


絞首刑の場所へ移動するため、決して重くはない足取りでその場を後にする。


財前の先輩らは、泣いてた。
俺の先輩らは、俯いてた。


気にしないでくださいよ、俺はこれでいいんすから。
これが、俺と財前の望んだ結末だから。


扉が閉まった。
顔に麻袋が被せられる。
首に、なにやら固い感触。
揺らぎ始める足元。


体が震えてきて、なんて滑稽。
訪れた、俺の最期に。


俺は、あの日の財前の言葉を思い出すんだ。
















「赤也は、狂ってなんかあらへんよ」


寄り添うように、ベッドに倒れた俺の傍らに座る財前。
男二人分の重みに、ベッドのスプリングが鳴いた。


「赤也は、狂ってなんかあらへん」


もう一度、噛みしめるように、言い聞かせるように、財前は繰り返す。
虚ろに財前を見れば、小さく笑って。
俺の頬に手を添えて、そっと口付けした。


「赤也が俺を殺したいって思っとるんなら、俺は構わへんよ」


「は……?」


何言ってんだよ。
お前は、まだまだ時間が残ってんのに、まだまだ味わってねぇ幸せがあるのに。
俺のエゴのためだけに、それを全部捨ててもいいってのかよ。
信じらんねぇ、そんな目で財前を見つめる。


「俺も、赤也が好き。世界中の誰よりも、何よりも。
そんな赤也が俺のことを殺してくれるんやろ?
きっと、今の俺はそれを望んでんねん……赤也に殺されたいって、望んでる」


それは、何よりも恐ろしい言葉であって。
死に対する恐怖なんて、財前にはないように見えた。
でも、俺と財前には、狂ってる俺らにとっては、もっとも優しい言葉だったんだ。


「赤也はどっちかっていうと……狂ってる、よりも、unreal、やな」


「俺が英語苦手なこと知ってるくせに使うんじゃねぇよ」


「ははっ、これくらい分かるやろ」


unreal。
確かにそうだ、こんなの、ちっとも現実的じゃねぇ。
現実的じゃねぇ俺らには、ピッタリかもな。


「あっ……そういえば今日、俺らが付き合い始めた日じゃん」


「せやな。……最高の命日やと思わへん?」


そして俺は、財前の命を自分の手で終わらせたんだ。








どこからか、鐘の音が聴こえる。
なぁ財前、なんか祝福の鐘みたいじゃね?


きっと、そっちでも会えるよな?
俺の心はお前が預かってんだから、待ってろよ。
今、会いに行くから。
お前の心を持って。







足元が、軽くなった。
















ほら、今会いに行く。










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なんつーもんを書いてんだわたし!!( ̄□ ̄;)!!
初の赤光がこんなんとか、ダメやん!

ちなみに、タイトルはボカロのです。
この曲を聴いて思いついた赤光だったりします(^_^;)

でも、二人ともお互いが大好きなんだよ!(`・ω・´)キリッ
それだけは言いたかった……。


感想待ってまーす、苦情は勘弁です(T_T)

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