メモ帳みたいなネタ帳

□LOVE☆LOVERS
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【silver MOON】



シルバームーン、銀の月。
これを聞いて反応しない女子叉は女性は日本にはもういない。
これはとあるアイドルグループの名前で、飛ぶ鳥全てを撃ち落とす勢いで人気急上昇中のイケメングループ。
ボーカル兼ギター・白石蔵ノ介を筆頭に、ベース・千歳千里、ドラム・忍足謙也の三人で構成されている。



CDは即日完売、グッズは売り切れゴメン、写真集はベストセラー入り目前、彼らがCMをやる商品を取り扱う会社はボロ儲け。
前代未聞を次々と現実のものにし、結成から一年経った今でも人気は衰える所を知らない。



だがここで明記しておくが、彼らはまだ高校二年生。
大人も涙目なスタイルを持っていながら、学生なのだ。
まぁ、登校は一年に半年分もできていないらしいが。



この物語は、彼らと財前光という高校生を巻き込んで繰り広げられるのであった。















この春入学したばかりの高校は、一風変わった校風が人気のエスカレータ式の高校。
エスカレータ式なのに高校から編入したことには突っ込まへんでほしい。
所謂、家庭の事情ってやつ。
詳しくは語れへん、とにかく高校から編入したんやけど、この高校が他とは違うことは確実やった。
一風どころやないで、ホンマに。



朝の集会では、校長がボケたら綺麗に生徒も教師もずっこける。
直立不動は禁止事項その1や。
正門では遅刻の場合、何かボケへんと入れてもらえへん。
制服は自由なんやけど、クズすのも改造も、果てには全裸も可という自由さ。
そんなふざけたような学校なんやけど、毎年全国学力ランクでトップにあり続けとるから驚きや。



そんな学校に通い始め、ちょうど慣れてきた梅雨明けの時期。



俺の運命を変える出来事が、すぐそこまで迫っとった。
















「アイドルのオーディション?」



授業全てを寝て過ごし、清々しく目を覚まして昼飯にありつく俺があんパンを頬張りながら言うた言葉や。
目の前に机を会わせて座るクラスメートは、何気ない口調で続ける。



「おう!1クラス1人代表でやるらしいんやけど、ウチのクラス代表、お前やから」



「はぁ!?ちょお待てや、そんなんいつ決めたんや!」



「お前が寝とった、朝のHRの時」



あ、はい、確かに寝とりましたね。
せやからって、そんな嫌がらせはないやろ!
俺がアイドルのオーディションやと?
生意気・仏頂面・二の句を告げば「うざいっすわ」の俺が!?
ありえへんやろーが!



「まぁまぁ、クラスの女子からの熱いご要望やねん」



「せやからって何で俺がっ、」



「ちなみに締め切りは今日のHR終了までやったから、もう取り消せへんで」



なんちゅー非道な策略巡らせとんのじゃ、このクラスの奴ら!
腹の虫がおさまらんくて、でもどうすることも出来んかったからあんパンをめちゃくちゃに頬張った。
あんの粒もパンの生地も、味を噛みしめる前に牛乳で飲み下した。
あー、最悪や!



「ちゅーか1クラス1人って、ウチの高校からメンバー選ぶん?」



「おん。なんやメンバーの全員に共通点持たせたいらしくて、その共通点がこの高校に通っとることなんやって」



「ほぉ〜……」



「しっかし羨ましいぜ財前!うまくいきゃ、あの【silver MOON】のメンバーになれるんやぞ!?」



「……は?」



思わず、最後の一滴しか残っとらん牛乳パックを落とすところやった。
silver MOON、やと?



「それって、あの三人のグループ?」



「せやで〜、なんやキーボード担当が欲しいんやと」



男の俺でも、そのグループ名と人気ぶりは耳にしたことがある。
【silver MOON】
世の女性を魅了し、嫌みのない国民的なアイドル。
羨ましい羨ましいと言い続ける友人に、だが俺は空になった牛乳パックを手で握りつぶして投げつけた。



「な、なにすんねん財前?」



「ふざけんなっ!俺があのグループ嫌いなの知っとるくせに、なんで俺にしたんや!?」



「お、落ち着けや財前!」



クラス中の視線が、俺に突き刺さる。
その中にはsilver MOONのファンも当然の如くおって、それでも構わへん。
あんなグループ、嫌いや!
その理由は誰も知らんでええ、何が何でも俺はあのグループが嫌いやねん!



「分かった!お前を選んでもうたことは謝る、せやけどオーディションには行ってや!」



「なんでやねん、おかしいやろ!」



「やって、ウチのクラスだけ代表無しとかありえへんやろ!?」














……結局、俺という人間は押しに弱いらしい。
あの後、友人に続いてクラスメート全員に頭下げられたら、否が応でもオーディションに参加せざるを得ない。
はぁ……なんでこんなことに……。



オーディションの会場は近くのホール。
ただっ広い中を貸し切ってやるらしいけど、審査員はプロデューサーとsilver MOONのメンバー三人だけ。
それなのに貸し切る必要があるんか?
金の無駄遣いとしか思えへん行為にも腹が立ってくる。



チラッと待合室の中におる各クラスの代表とやらを見れば、全員緊張した面持ちや。
何を緊張する必要があんねん、相手は同じ高校生やのに。
一年から三年まで集められとるから、この中には、あの三人の先輩もおるのに、後輩を相手に緊張するなんて。
俺にとっては、それは何事にも代え難い羞恥に近い。



「生徒の皆さん、そろそろ時間です!番号順に並んでください!」



関係者の声にすら肩をビクつかせる滑稽な他の連中なんて、見てられへん。
ため息一つ、自分の手の中にある番号を見た。
7であったことが、この状況での唯一の救いやったかも知れへん。



7は、俺とあの人を結ぶ、唯一無二のものやから。



ぎゅっと握りしめ、落ちる気満々で、ステージ袖に移動して順番を待った。
俺の前の奴らは同学年の代表ばっかやったけど、全員揃いも揃って声を裏返しになってもうてる。
ああ、見てられへん。
思わず額を押さえてまうほどや。
そんなこんなで、ついに俺の番になった。
あーあ、どないすれば簡単に落ちれるんやろ。
無表情でそう思いながら、ステージ袖から出た。
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