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□素直さと強情と優しさと
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「ざーいーぜーん」



それは、俺の教室の前。
廊下でだらだらとクラスメートと話してた、まさにその時や。



二学年の棟で聞くはずのない声に振り返ろうとしたら、ふわっと温もりに包まれた。
ちょうど俺の胸の前で交差しとる二本の腕。



「だーれだ?」



耳元で囁かれ、きゅんとする。
…………って、んなワケあらへんやろ。
むしろ、背筋からぞわぞわが這い上がってきたわ!



「離してください、部長!」



「えー?せっかく来たんにー」



「どうせ移動教室の途中なんでしょ!?
 今、ダチと話しとるから離してください!」



「あっ、自分ら財前の友だち?
 コイツ俺のやから、手ぇ出したらあかんで?」



誰が俺なんかに手ぇ出すんやっちゅーねん。
ほら、みんなぽかーんとしてもうてるやん。
ああもう、フツーに話できる空気とちゃうがな。



でも、呆れる反面、堂々と【俺のもの】て言うてくれて嬉しい気もする。
俺と白石部長は付き合うてる。
好きになったキッカケとかはお互い忘れてもうてるけど、とにかくお互いが好きで。



白石部長が告白してくれた時なんざ、俺、めっちゃ泣いたで?
やって望みなんざ希薄やん。
俺は男、白石部長も男、♂×♂は法的に認められへん。
そんなの異端で、完璧聖書な白石部長が許すワケあらへんって、思うてたから。
だからこそ告白されて頷いたとき、抱きしめられて、また泣いてもうたんや。
ああ、夢とちゃうんやな、て。



……あかん、そんなこと考えとったら顔熱くなってきた。
次の授業……なんやったっけ、古典?
うわっ、最悪。
でもええ理由や、嫌いなもんからは逃げたもん勝ちや。



「部長、ちょおこっち来て」



部長の手を取って、教室の前から離れる。
お笑いの学校といえどチャイムはごく普通で、その音が聞こえても構わずに屋上へと階段を登る。



「なんや財前、積極的やな〜」



「ちょお黙ってください」



屋上の扉が古くさい音を立てたと同時くらいに、本鈴が鳴った。
まぁ、そんなの気にせぇへん。
俺も白石部長も勉強はそれなりにできるし、一応予習復習もきちんとしとるから一時間くらい平気や。
繋いどった部長の手をパッと離し、ごろんと寝転んだ。



「あーあ、サボってもうたな」



「誰のせいだと思うてるんすか」



「分かっとるって」



俺の反応を見て楽しそうに言いながら、白石部長も俺の隣に寝転がる。
太陽はちょうど雲に隠れとって、ただ青いだけの空が広がってた。



「ねぇ、白石部長」



「ん?」



「俺のどこが好きなんすか?」



ごろんと寝返りを打って、白石部長と寝転がったまま正面から向き合う。
これは、いつまで経っても消えへん疑問。



部長は、完璧で、みんなの憧れ。
俺は、ただの後輩で、生意気。
一応自覚はしとるで。
生意気、無愛想、不器用、口を開けば「うざいっすわ」。



ほら、どこに愛される要素があるっちゅーねん。
見当たらへんどころか、一つも無い。
元々無いもんを見つ出すなんて無理な話や。



自虐的に言えば、白石部長は仕方ないとも言いたげな笑みを浮かべ、俺の黒髪を撫でた。
白石部長の指と指の間を、俺の髪が滑る。



「たとえば、この髪。ワックス付けとるのにフワフワで猫みたいや」



髪に触れた指が、そっと頬を撫でる。
そんでそのまま、俺の唇をなぞった。



「たとえば、この唇。薄くて綺麗な桃色で、食ってまいたくなるわ」



そして、白石部長の指は俺の目元を撫でた。
思わず、ぎゅっと目を瞑る。



「たとえば、この瞳。俺だけ映してくれればええのにって、いつも思うで」



言い終えると、白石部長は俺の額に小さくキスを落とした。
目を開ければ、微笑しとる白石部長。



「どこが好き、やなんて、ホントはよぉ分からへん。
でも、そういうもんやないか?
その部分が無かったら嫌いって180°見方が変わるワケあらへんやん?
せやけど、自信を持って俺は言うで。
何があっても、俺は財前を愛しとる。
……せやから、泣かへんで?」



白石部長は微笑したまま、俺の頬をそっと撫でた。
泣いとることなんざ、指摘されるまで分からへんかった。



きっとな、安心して泣いてもうたんや。
やって嬉しかったから。



俺、ちゃんと白石部長に愛されとんのや、て。
愛されても、ええんやなって。
今更ながら、そう思うたから。



「あーあ、泣いたらあかんって」



「っ、別に、泣いてなんかないっすわ…!」



「……ホンマに、しょーがない子やな」



言いながら、白石部長は俺に向かって両腕を広げる。
俺は涙を拭わないまま、白石部長の腕に収まる。
ぽすっと額を白石部長の胸に当てれば、とくん、とくんって優しい音が聞こえた。
……あったかい。



「どうせサボってもうたんや、寝てもええで?」



「ん……せやけど、もったいないっすわ」



せっかく、白石部長と一緒にサボってんのに俺だけ寝るなんて。
白石部長は俺と違うて真面目やから、もう一緒にサボってくれへんかも知れんのに。
でも白石部長のあったかい腕の中に包まれて心臓の音を聞いてると、自然と目蓋が落ちてくる。



「大丈夫やって、俺もちょお寝るわ」



「でも、せっかく……二人っきりで、サボって、のに……」



呂律がだんだんと回らなくなって、最終的には完璧に目蓋が降りてもうた。
ああ、あかん。
このままじゃ、ホンマに寝てまうやん俺。



「……ずっと抱きしめててやるさかい、寝てもええで」



「ん……」



ぎゅっと抱きしめられて、小さく頷いてから俺は眠った。
あったかい腕に包まれながら、優しい音を聞きながら。
授業をサボって白石部長に抱きしめられながら、屋上で寝た。












腕の中で小さく寝息を立てとる恋人は、あどけない表情を晒しとる。
あーあ、無防備。
こんな無防備な恋人を置いて授業に戻れるほど鬼畜とちゃうで。



財前の額にかかっとる髪をそっと指ですくえば、さらっとした感触の後で指と指の間をすり抜けてった。
口元をふにゃふにゃとさせ、胸にすり寄ってくる。
あーあ、ホンマに可愛え。



「さて、起きたら俺のどこが好きなんかも聞かんとなぁ」



この恋人は、何を最初に言うんやろ。
顔真っ赤にさせて何を言うか、第一声を楽しみに、俺も瞳を閉じた。
愛しい恋人の温もりを、腕の中に感じながら。





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蔵光でしたー、甘々でしたー(^◇^)
白石って、付き合い始めたらオープンな気がするんです!
「え?隠す必要なんてあらへんやろ?」
て真顔で言っちゃって、それに赤面しちゃう財前……え、エクスタシー!!(笑)


書き直しはいつでも受け付けるよ☆ミ

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