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□デート☆デイズ
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「光、次あれ!あれ乗るで!」



周りのことを忘れて俺の手を握っとる謙也さんが、ジェットコースターを指差す。
この人、ホンマに絶叫系好きやなぁ……。
普段あんなにヘタレやのに。



「なにボーッとしてんねん、早よ走って行くで!」



「はいはい、走って行かんでもジェットコースターは逃げませんって」



「そ、そりゃそうやけど、早よ乗りたいやん!」



うずうずを隠し切れない様子の謙也さんは、自然と早足になっとる。
謙也さんに犬耳とか付いとったら、絶対ブンブン振っとるで今。



日曜日で部活も無い、はっきり言って一週間のうちで唯一休みの今日、俺と謙也さんは府内の遊園地に来とった。
なんでも、謙也さんのお母さんが商店街の福引で一等引いて、それが遊園地パス二名分だったらしい。
すごいなぁ、謙也さんもちょこっと運貰えばええのに。
そうすれば、運悪いのもちょこっとは良くなるんやろなぁ。



で、太っ腹な謙也さんのお母さんは、そのパスを謙也さんにくれたんや。
それで俺は謙也さんに誘われて、ただ今ジェットコースターに乗るために列に並んどる。
今並んどるジェットコースターは最近できたばかりで人気があるらしく、待ち時間は30分以上。
俺はその気になれば何分でも待てるけど、謙也さんはそこまで気の長い人とちゃう。



むしろ、めっちゃ短い。



「あーもう、なんでこんなに人多いねん!
 そんで、なんでこんなに進まへんねん!」



ほら、きた。
謙也さんアホやなぁ、日曜日やから人多いに決まっとるやろーが。



「いったん抜けて、人少ななったら並びません?」



「え、ええの?」



「やって謙也さん、絶対に苛々してまうでしょ?
 お弁当作ってきたんで、そこの休憩スペースで食いましょ」



「!食う!そうとなれば早よ抜けるで!」



多分、今の謙也さんの頭の中では、ジェットコースター<<<<<<<<<<<弁当、なんやろな。
やってめっちゃ目がキラキラしとるもん、漫画やったら♪マーク出とるもん。



さっそく休憩スペースのベンチに座って弁当を広げる。
広げる、いうても二人分やけど。
仮にも美味しそうとは言えへん弁当の中身に、それでも謙也さんは相変わらずキラキラした目や。



「んまー!光、料理上手くなったなぁ!」



「ん……まぁ、前は料理が凶器でしたからね」



卵焼きをつまみ、口に放り込む。
ん、塩と砂糖も間違えてへん、よかった。



今だからこそ食べられる俺の手作り弁当やけど、1ヶ月前まではそれこそ暗黒物質やった。
塩と砂糖を間違えるのは当たり前や。
卵焼きは爆発、盛り付けも崩れやすくて上手くできへん、謙也さんは甘いのイマイチやから甘すぎず無味すぎず……。



たかが弁当1個作るだけでも至難の業やったのに、今の俺はフツーに料理ができるまでになった。
やって、謙也さんがあんなこと真顔で言うからや……。



『将来、俺も光も大学生になったら一緒に住もうな』



それは、一生二人でいようなっちゅー遠回しの告白で。
俺はそれに泣きながらも、精一杯に頷いた。
せやから、料理の一つもできへんとダメやろなぁ思うて、必死に練習したんや。
……あかん、思い出したら恥ずかしくなってきてもうた。



「いや〜、一時期はどうなるかと思うたけどな!あ、光ご飯粒付いとる」



へ?
物思いにふけっとった俺は、謙也さんが何て言うたか聞き逃してもうた。
そんな呆け顔晒しとる俺の口元についとったご飯粒を謙也さんの指がそっと取る。
あ、ご飯粒ついとったんや。



どうもっすわ。
そう言おうとした俺は、謙也さんがそのご飯粒を口に入れたのを見て別の言葉がとび出した。



「な、なななな何してんねん!」



「へ?光についとったご飯粒食っただけやけど?」



「『だけやけど?』やないわ!ここ遊園地っすよ!?子供大人老若男女来とるんすよ!?
 しかも日曜日やし!どないすんねん、恥ずかしいやないですか、謙也さんのアホ!!」



「いやいや、いくらテンパってるからってそこまで言わんでも」



や、やって、口元のご飯粒そのまま食うとか、あ、ある意味間接チューやん!
なんか、間接チューとかでこチューとか、普通にキスするより恥ずかしい。
なんやろ、女子相手にされとる気分になんねん!



「別に見せつけたったらええやん。俺と光、恋人同士なんやし?」



「せやからって……!」



「ほら、食い終わったから、また回ろうや!」



気が付けば、もう弁当箱の中身は空っぽ。
謙也さんの食う量が多いのか、それとも俺が照れ隠しでひたすら食っとったのか……。
おそらくやけど、後者やな。
やってめっちゃ腹いっぱいやもん……。













食い終わった後、さっきのジェットコースターに乗ったりコーヒーカップ乗ったりした。
コーヒーカップの場合、謙也さんが回し過ぎて俺も謙也さんもフラフラになってもうたんやけどな。



気が付けば時間はあっという間に過ぎるもんで、空がゆっくりと紅に染まり始めた。
そろそろ閉園時間なんやな、人がめっちゃ減ったわ。



謙也さんは、「最後に観覧車乗ろうや!」と意気揚々と歩いてったんやけど、不幸かな、観覧車は点検中やった。
なんでも、僅か1時間前に不祥事が起こっただとかなんとか。
あーあ、1時間より前に来とったら乗れたのに。
謙也さんにとってはよほどショックやったらしく、分かりやすく肩を落としとる。



「謙也さん、そないに落ち込まんでください」



「やって!遊園地デートの締め言うたら、観覧車の一番てっぺんでキスやろ!」



なんちゅーベタな締めや。
謙也さん、ベタな展開とか好きやからな〜、今日は最初からそのつもりやったんやと思うで。
ちゅーか、遊園地デートに誘われた時点でそう思うたもん。



でもな、いつまでもしゃがみ込んどるのやめてくれません?
痛いんすわ、子供大人老若男女の視線が。



「はぁー……最後にどれでも好きなアトラクション乗ったげますんで、とりあえず立って――」



「ホンマに!?」



さっきまで膝に顔埋めとった謙也さんがバッと立ち上がり、またあのキラキラした目で俺を見る。
……やば、ハメられた感しかせぇへん。
でも謙也さんはハメるとかそういうことに頭回らへん人やから違うんやと思う。



「じゃあこっち!こっちのやつ乗ろう!」



再び謙也さんは俺の手を取り、どんどん観覧車から離れてく。
もう未練はないんかい。
にしても謙也さん、ちょろいっすわ……。



「これ!これ乗ろうや!」



ちょろいとか言うてた1秒前の俺にジャイアントパンダデスロックかましてやりたい。



謙也さんが指差した先にあるのは、回転木馬に馬車に王冠みたいな煌びやかな外観の……



「謙也さん、今すぐ帰りましょ」



「待て待て待て待て!さっき言うてた約束はどないしてん!」



「せやかて恥かくだけやん、このアトラクション!ちゅーかアトラクションって言わへんし!」



「ええやん!お願いや光、一緒に乗ろう!」



「絶対に嫌です!なんで中2にもなってメリーゴーランド乗らなあかんのですか!?」



女子でもめったに乗らへんやろ、こんなん!
白いお馬さんに乗ってくるくる〜、なんざ小っさい子供か女子がやるから可愛えねん!
謙也さんのアホ、俺の見た目をもう一度見直せや!
どう見ても、360度から見ても男やろ!
こんな正真正銘の男がメリーゴーランド乗ってもキモいだけやん!



「大丈夫やって!ほら、馬車なら外からも見えにくいやん?」



「そういう問題とちゃうんです!なんか、男として捨てたらあかんプライドがあるんです!
 謙也さん、アンタやってヘタレといえど男なんやからプライドの【プ】の字くらいあるでしょう!?」



「そんなん、おかんの子宮の中に置いてきたで!」



「もう一回おかんの子宮に戻って拾ってこい!」



「ちょ、それは無理やって」



「とにかく嫌です!俺は絶対に乗らんですから!」



ぷいっと謙也さんから視線を逸らす。
あーもうありえへん!
こんなんやったら、あのまま謙也さん放置して俺だけ帰ったほうがまだマシな展開やったわ!



「……ほな、しゃーないなぁ」



謙也さんが明らかに残念そうな声をため息と共にこぼす。
せやせや、そのまま諦めるんや。
と、思うたのも束の間。



「――なら強硬手段や!!」



「ひゃああっ!!?」



体がいきなり宙に浮いたかと思うと、謙也さんが俺の体を横抱きにしとった。
まぁ、世間一般で俗に言う【お姫様だっこ】っちゅーやつ。
それだけでも恥ずかしいのに、謙也さんはそのまま俺とメリーゴーランドの馬車の中に。
中に下ろされた瞬間逃げ出そうとした俺やけど、謙也さんは俺を足の間に座らせとって、両腕で俺の体をがっちりホールドしとる。



「離せやボケンヤさん!」



「絶対離さへん!このスピードスターのプライドにかけて!」



「子宮に忘れてきたんとちゃうんかい!」



ぎゃーぎゃー言うとるうちに、作業員がメリーゴーランドのスイッチを押したのか、ゆっくりと回り始めた。
あああああ、もう逃げられへんやん俺……!



ちらっと馬車から身を乗り出して外を見れば、普通に子供がメリーゴーランドを見とる。
あかん、絶対に見られたない!
やってこんなん、ただの羞恥プレイやん!
俺、そんなんされて喜ぶ趣味やないで!



「あれ?光、顔真っ赤やで」



「誰のせいやと思うてるんですか!?」



「ははっ、可愛え〜の〜」



言いながら、謙也さんは俺の首元に顔をうずめてくる。
れろっと濡れた感触がして、それが謙也さんの舌やって分かった瞬間、過敏に反応してもうた。



「あー……光、この後俺の家来ぉへん?」



「っ、行くだけっすから、ね」



「え!?い、いや……なんなら、お泊りしてそのままいちゃいちゃ――」



「アンタいっぺん死ね!!」



この後、結局俺は謙也さんの家に泊まることが決定。
翌日、足腰が立たなくなるほどの腰への鈍痛に声を唸らせることになった。



くるくる回るメリーゴーランド。
こんなふうに、何度も何度も幸せを繰り返していきたい。
けど、もう乗るのは絶対嫌やで!





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謙光で遊園地デートでした!
遊園地デート書くの楽しいよメリーゴーランド可愛いよニヤニヤ(//∇//)
謙也さんは天然タラシなところもあるから、フツーにご飯粒食べちゃうんだよね。
光はそれに顔真っ赤にしちゃうんだよね可愛いなもう(*^_^*)


書き直しはいつでも受け付けますよー!!

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