BASARA
□愛して、お願い
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彼はいつも違う女をその胸に、背後に、傍らに、足元に侍らせていた。
決まって女達はどれも見目麗しく、彼にふさわしい振る舞いをしていた。
そしてそれは一枚の絵画のように美しく、そうであることが至極当たり前となっていた。
「お前を、室にする」
そんな私は彼が侍らせているどの女にも見劣り、彼の好みの体つきや顔ではない。
むしろ逆の位置にいる。
ならばそれすら凌駕するほどの財力を持っているのか、と問われれば答えは否。
「殿…お戯れを。わたくしなどよりも殿に相応しい家柄と美しさを兼ね備えた姫君がいらっしゃいますではありませぬか」
平伏したまま静かに答えると、殿は不満げに鼻を鳴らした。
「戯れなもんか。俺は本気だぜ?お前を室にする。Yes以外認めねぇ。You see?」
「…お言葉でございますが、わたくしめには家柄も地位も財力も美しさも知性も何もかもがありませぬ。あるのはこの身ひとつのみ。殿にとって有益になるものなどございませぬ。それどころか無益、でございます」
「ハッ、くだらねぇ。何故お前が決める?お前に拒否権なんかねぇよ。俺が室にすると決めたんだ、室になれ。有益無益だと?……お前はこの俺に、この奥州筆頭独眼竜伊達政宗が治める国にお前を室にすることで衰弱するくらいに軟弱だと、そう、言いたいのか?」
冷たく感情のこもっていない声色で言う殿。
ここまでわたくしごときに拒絶されるとは思わなかったのだろう。
すっと立ち上がりわたくしの方へと殿が近付く気配がする。
思わず逃げ出したくなったけれども許しが出ていないことと、殿が怖くて身体が思うように動かない。
わたくしはかすかに震えながらも平伏したままでいた。
「顔をあげろ」
「……御意」
「下を向くな。俺を見ろ。…そう、俺の目を見ろ」
「……御意」
目の前にはいつも堂々とした表情の殿ではなく、すがるような、泣きそうな、悲しそうな表情だった。
ふいに左頬に殿の手が添えられ、殿の親指の腹でそっと優しく撫でられた。
まるで慈しむかのように、愛しげに撫でられ、わたくしの頬が微かに朱に染まるのを感じた。
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