BASARA
□自由になった忍
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全てを終えた今、私を縛るモノは何一つない。
「あぁ…自由だ」
辺りに倒れている兵は織田軍。
全員この手で始末した。
遠くで馬が駆ける音がする。
恐らく騒ぎを聞き付けた甲斐の若虎か奥州の独眼竜あたりだろう。
あるいはその両方か。
面倒事になる前に姿を消すかと身を翻した時、殺気を感じてその場から素早く離れた。
「あはー、よく分かったね」
「お前は……猿飛佐助か」
「お?俺様の事知ってるんだ?」
「お前ほど忍べていない忍びなど他に有るまいに。それより挨拶無しに攻撃とは……」
ちらりと地面に視線を向ける。
「角度からして、頭・首・心の臓……。殺しに来たか?」
ちゃきっと愛刀を構える。
先程いた場所には数本のクナイが刺さっていた。
佐助はふざけた口調から一転して、殺気の籠った目で私を鋭く睨む。
「何故、殺した?」
「……。一応、誰だ、と聞くか?」
「ふざけるなっ!!」
またクナイが投げられる。
それらを全て打ち落とし、佐助を嘲笑った。
「可笑しいな。私は忍に心はないと教えられたが…」
「このっ…!!」
「お前には心があるように見えるぞ?まるで表の人間のようだ。なぁ?佐助」
佐助からの攻撃は全て受け流し、急所を敢えて避けて傷付ける。
力の差を見せ付けられて悔しいのか佐助は顔を歪めた。
「私はかえりたいのだ。何も知らなかった頃に……この両手が血に染まる、前の自分に……。私は、かえりたい、のだよ」
「何、訳の分からない事を言ってんだよ!」
「だがどんなに願っても叶ったとしても周りがそれを許さなかった。私の世界はここではないのに……。馬鹿な奴等だよ、全く」
今一度刀を握る手に力を込め、佐助を睨む。
もうすぐそこまで馬の足音が近付いている。
…次で決めよう。
「さて、色々と長話し過ぎてしまったな。済まないが、遊びは終いだ」
全力で佐助の懐に潜り込み、腹部をざっくり斬りつける。
「っ?!」
派手に血飛沫が出たが、この程度ならば死にはしないだろう。
倒れ行く佐助にふっと微笑み、隠していた馬へと飛び乗った。
「待てっ!!」
「待てと言われて待つ奴はおらんさ」
喚く佐助を背に馬を駆けた。
私を縛るモノは何もない。
何故なら全て私が始末したから。
里も、仲間も、忠誠を誓った主さえも……
自由になった忍
(愛する者たちを手にかけてまで、欲しかった)
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