保健室の死神

□隣が気になって眠れない
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『妊娠したんですっ!!……検査薬だって、ほらっ陽性です!!』
『いや、だから、落ち着いて、ね?』
『これが落ち着いていられますかっ?!誰が責任取ってくれるんですか!』
『検査薬だって必ずしも100だとは言えないし……』
『言い逃れっ?!確かにその通りかもしれません。けど!けど5種類の検査薬すべてが陽性ですよ?』


やや興奮気味に女は叫ぶ。
落ち着かせようと宥める先生だが、逆効果のようだ。
藤はほぼ閉じかけていた瞼を押し上げ、驚き、耳を澄ました。

すぅ、と誰かが深呼吸する音が聞こえた次の瞬間―――


『妊娠以外なんだって言うんですか!』


ガタンっ、と大きな音をたてて一際大きい声で女は言った。
若干エコーがかかっていたから、絶対に廊下まで響いている。
女も先生もそれに気付いたのか、気まずい、なんとも言えない沈黙が流れる。
未だに二人は藤の存在に気付いていないようだが、それも時間の問題。
数あるベッドでカーテンしてあるのはここだけだ。
いっそこのまま何も知らずに寝てしまおうか。
それとも今起きた体で「何騒いでんだよ、うるせぇな」と出ていくか。

藤は真剣に悩んだ。

そしてサボるなら保健室じゃなくて屋上でも行けば良かったと心底後悔した。

そうこうしているうちに、二人はまた話し始める。
お互いに冷静になったのか、先程よりも落ち着いた口調で静かだ。
会話の内容は断片的にしか聞こえなくなった。



やっと静かになった。
良かった、良かった。
あとはタイミングを見て抜け出すだけ。
さてさてまた寝るか。


藤はほっと安堵し眠りにつこうとした…………のが間違いだった。


『…………認知しないと―――が…』
『――――は一人で産みます』
『何を考えて……――?』
『……示談金が……』
『――――結婚は……』
『――無理だ…………が……』
『最低!』
『仕方ないでしょう?……だ―――』



カーテン一枚向こうでは昼ドラ顔負けの展開が、断片的に聞こえてしまう。
しかも人物はあのハデス先生と謎の女性。
興味を引かないわけがない。
聞こえそうで聞こえない状況に目が完全に醒めてしまった。
気が付くと、聞き耳をたてようと神経が集中してしまう。





隣が気になって、眠れない


次の美術の時間、珍しく藤がサボらず最後まで参加したと一部で騒ぎになった。





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