保健室の死神

□初恋は実らない、ジンクスさえも憎い
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保健室での衝撃な再会を果たして1ヶ月が過ぎた。
あの後シンヤは私の異変を感じ取り、保健室に直接誘うことはなくなった。
けれどシンヤも、いや、あの場にいた皆は私と………“先生”の間に何かあるのに気付いたようだ。
事実、それまでは当たり前のように話題に出ていた保健室関係の話が一切なくなった。
それに詳しくは分からないけれど、“先生”の態度?雰囲気?が極端に変わったらしい。
シンヤ曰く、以前までは生徒の前でぼんやりすることは無かったのに、最近はずっとぼんやりしているそうだ。
今まで連絡を取り合っていたのに、あの日を境に電話もメールも来なくなったし、私からも送らなくなった。


「きっと……これでいいんだ」


教師と生徒の恋なんて漫画やアニメの世界だけ。
現実にそれを求めるなんてバカみたい。
現実を見なきゃ…。

自分に言い聞かせるように呟いて、家に帰る準備を進める。
教室には私以外に誰もいなくて少し寂しい。
シンヤは手芸部があるらしく、今日は1人で帰らなくてはならない。
いつもならシンヤを待つけど、なんだか早く家に帰りたかった。

シンヤ宛に手紙を書き残し、教室から出ようとトビラに手をかけた時、微かに話し声が聞こえた。
どうやら隣の空き教室から聞こえたようだ。
恐らく誰かが空き教室でお喋りをしているのだろう。
通り過ぎようと歩き始めた瞬間、体が固まった。


声が聞こえたのだ。
今1番聞きたくない声が。


「こんな所に呼び出して何か用ですか?尾島先生」

「あら、つれないのねぇ……派出須先生。女が男を人気のない場所に呼び出す理由なんて、1つしかないじゃない?」

「……。早く済ませてくれませんか?保健室で生徒が待っているので」


男好きで有名な尾島先生と、“先生”の声だった。
こっそり中を覗いて見ると向こうからは私が見えないようで、気付いていないようだ。
ならば今すぐ静かにここから離れなければならないのに、私の足は床と同化したのか全く動かない。

そうこうしているうちに、話がどんどん進んでいく。
この流れは非常にマズイ気がした。
「つまり、ね……派出須先生。私は仕事仲間としてではなく、もっと……そう、貴方と深い仲になりたいのよ」

「………」

「私と付き合ってくれるでしょ?イツヒトさん……」


最後に見たのは甘ったるい声を出しながら、“先生”の首に腕を絡ませる尾島先生と、それを受け入れも拒絶もしない“先生”の後ろ姿だった。

私は弾かれたようにその場から全力で走って逃げた。
これ以上あの場所にいたら、頭の中がぐっちゃになって自分でも何をしたいのか分からなくなりそうで。

“先生”はなんと返事したのか分からないけれど、抱き着かれて拒絶をしなかった。

つまりそれが答えなんだ。

私みたいな子供よりも、尾島先生みたいな大人の女性が誰だって良いに決まってる。


どこでも耳にするとあるフレーズが、私の心に重く鉛のように沈んでいく。
ジンクスとなっているソレは今の私の状態を見事に表していた。



初恋は実らない、
そんなジンクスさえも憎い







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