企画物議

□青春、到来(前)
1ページ/4ページ



前回までのあらすじ。

<問題児4人、臨也、新羅、門田、静雄が修学旅行をサボってまで魅惑の遊園地、富士Qハイランドへ一泊二日の小旅行にでかけたとある週末。やたら静雄に喧嘩じゃないからかいをふっかけてきた臨也が、遊園地で体調不良になり、用事と我儘で帰る門田と新羅が気を利かせて静雄だけ残して東京に帰りやがった。
ぶすくれつつ付き添ってやる静雄と、回復した臨也が珍しくわだかまりを捨てて向き合うと、ほろ苦い青春が成就する。ぎこちないまま帰路を急ぐ二人だが、東京で合流した門田と新羅は、あの駅で見掛けた女の子を迷子になっていたと警察へ送る途中だった。

 ところが、警察へ送るまでに何故か追われて、4人で女の子を守りながらどうにか警察まで送り届けたのはよかったけども、なんと訳有りな女の子だったために4人それぞれ事情を聞かれたり、臨也の情報が役にたったりと七転八倒。ようやく解放され、女の子と母親の涙の再会に胸を撫で下ろして彼等の旅行はやっと終った。>

はずだった。

臨也のマンションに荷物を置いていた面々は、疲れ切った様子で言葉少なく週明けの再会を口にしていった。だが、静雄だけはなかなか帰ろうとせず、何となく声をかけにくかった臨也がどうしたのかと尋ねてみる。

「……いや腹減ったから一緒に飯でも食わねぇかと思ってんだが…」

この激動の三日間でひたすら疲れ切った二人は、一人になってゆっくり休みたいと思う反面、このまま離れるには惜しいと考えていた。しかし、無碍に誘っても断られないか、迷惑じゃないかと恐れて言い出せるまでもたついてしまっていた。静雄だけでなく臨也も。
 このまま一人になったら、折角歩み寄れた心がまた離れて、前のようになってしまいそうだと恐れていた。

「……そういやそうだね。この辺に安い飯屋があるから、そこにいこうか。それともなんか買ってここで食べる?」

 静雄からの誘いを、意外とすんなり受け入れる臨也に、ほっとしたのと思わず気構えてしまう緊張に、静雄はつい肩に力が入る。そんなガチガチに緊張してみせた静雄を見て、むしろ冷静になれる臨也は、つい噴き出しそうになるのを慌てて口を開いて誤魔化す。

「そういや、飲み物や水もきらしていたな。日用品も買いたいからついでに何か材料買って作ろう。あまり凝ったものはできないけどさ」

「え、お前、料理できんのか」

「まぁ、それなりに。…妹いるからさ、たまに作っていたし。今は一人暮らしだし」

 そういえば、高校生で実家もそう離れていないのにわざわざここで一人暮らしをしている臨也を、改めて疑問に感じてしまう。聞けば年頃になりつつある妹らのために離れてやってるんだと笑っていたが、その笑みは作り笑顔だとひしひし感じた。だが、あまりせっついて理由を問い質してもきっと答えやしないだろう。
 それにどんな答えであっても、静雄がどうのこうのと言えたものではない、それだけはわかった。

 臨也のマンションから歩いてすぐに、やたら落ち着いたスーパーが構えていた。静雄が日頃通るような、活気に満ちたスーパーではなく、商品も値段もグレードが高めな高級食材店と言えた。慣れた足取りで店内に入る臨也について、見なれないフルーツが並ぶ棚を眺め、高校生には不釣り合いだと畏縮してしまう。

 南国のフルーツや桐箱に入れられたメロンまで堂々と並べられている陳列棚を通り、臨也は並べられたトマトを掴んでカゴに入れていた。輸入品なのか、見なれない調味料やレトルト、飲み物などをみていると、臨也がカゴを静雄に付き出してきた。

「夕飯作ってやるから、荷物もってよ」

 そう言って静雄に否応なくカゴを持たせると、調味料や水のペットボトルなどを遠慮なく詰め込み出す。ずしりずしりと重くはなるが、静雄にはまだ軽く感じられる。それでもここぞとばかりに重いものをカゴに入れる臨也を呼びかけて諌めてみた。

「シズちゃんいるなら、重いものを運んでくれるだろ?買い溜めだよ、買い溜め」

 パスタのソースを掴んで笑うその顔は、学校の笑顔より随分と穏やかなのは、まだ、旅行中だと感じられるからなのか、それとも。

「どうせすぐ帰らないだろ、二人分の飲み物ぐらいは運んでよ」

 僅かに通じ合っていると、思わせられているからか。





次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ