捏造長編

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得意気な遊馬崎の言葉に、首を傾げて新羅は考えてから応える。それでも処置の手を止めないのは流石だろう。

「……リーダーって、どこの?なに、知り合い?」

「俺らダラーズっすよ?前もリーダーから車出すよう言われたことあって。多分それで」

「静雄と臨也が学校に逃げ込んだって教えられてな。もしも一般の生徒がいたら、巻き込まれる前に連れ出してくれって言われたんだ」

「…へぇ、さすがネットワークが強いだけあって、学校に逃げ込んだとかお見通しだったのか」

ネットを媒介とする目に見えて大きな組織が、やはり絡んで来たかと納得させられる。まさか保護しているようで、どこぞに差し出すつもりなのかと警戒してしまい、門田に優しくない顔でもう一つ尋ねる。

「……それで、この二人はどこに連れていくんだい?警察?ヤクザ?」

新羅の言葉に、運転手と項垂れる静雄以外が顔を見合わせると、狩沢が横に首を振って、遊馬崎が口を開いた。

「別にどこにも?とりあえず、首無しライダーについていくだけっす。手当が必要なんでしょう?」

さらりと新羅の警戒を受け流す言葉を吐き出し、またもや新羅を混乱させてしまう。

「え、だって、ダラーズってあちこちと繋がってるチームじゃないか?ここでこの二人を追っているどこそこに突き出すためじゃないのか?」

「そんな面倒なこと、やりたかないですよ」

「リーダーからも何も言われていないしな。…ところで、お前の家はどう行けばいいんだ?」

この状況でこの二人を放置するなんて、どんな考えをしているのか。姿を見せないダラーズのリーダーに疑心を抱きつつも、少しばかりは感謝したい。こんな形で知り合いの死を見たくはない。
セルティのお陰で濃いスモークになった窓から、辺りを伺うと見慣れた交差点だとわかる。

「本当はここを真っ直ぐに走ればいいんだけど、左に…」

「真っ直ぐっすね!ラジャーっすよ!」

「え、ダメだって!警察やヤクザも僕をマークしているし、張っているだろうから無理だ!」

この先恐らく検問か非常網でも敷いているだろう可能性に、直進する車に慌ててしまう。だが、面々はあまり気にしていなく、門田がフロントガラスを指差していた。

「……今日のこの車はツイてるんだぜ?」

速度ががくりと落ち、赤信号が見えてその先。

これから車が向かおうとした方向から、けたたましいサイレンと回転する赤色灯の洪水が押し寄せる。
無数のヘッドライトが、この車を目標にしたのかと冷や汗が流れるが、新羅たちから見て右へ、パトカーや白バイたちは一つの流れになって走り抜けていく。

その光の中には、新羅が見落とすことはない影、バンを先導していたはずのセルティが彼等を引き連れるように走り抜いていた。

「?!せ、セルティ?!」

鮮やかに交差点を折れ曲がるセルティのすぐ後ろを、ほとんど直角に曲がり、彼女に食らいつく一台の白バイが目立つ。恐らく彼女の天敵なのだろうに、あえて囮を買って出てくれた。なんて危険な、と考えたものの、ぐっと胸底から目頭に沸き上がる熱い感覚と、恋人への改めて感謝と慕情が強まっていく。

盛大な追いかけっこを眺めて、バンが走り出せば恐らく張っていた警察は殆ど彼女を追ってしまったのか、車通りもない道路は閑散としていた。僅かに制服姿の警官が二人程道路で無線を手にして立っていたが、脇を通るこの車など見てもない。何かと騒がせている首無しライダーが颯爽と目の前にいれば、慌てるのも仕方ないのか。
とめられることなく走り抜けて、だが、またもや違う不安感に新羅は慄いていた。

「……だけど、僕のマンションには多分、見張りがいるよ。警察もだけど、ヤクザも。ちょっとさっきトラブってさ……」

そういえば新羅も先程まで、ヤクザに捕らわれていたのだ。父親を騙して人質を変って貰ったが、恐らくマンションには何人か張り込んでいるだろう。力で押そうにも重傷者が二人もいる。最悪、最寄りの病院に叩き込まねばならない。

「……取り合えず様子を見てみよう。あれだけ多数の警察が近くにいたんだ、ヤクザがそう近寄れるとは考え難いけど…」

「………そうだね」

この偶然が偶然を呼ぶ奇跡が、まだ続いて欲しいと願いながらバンはマンションをぐるりと一周し、辺りを見渡しながら地下の駐車場へと潜り込んだ。
恐ろしいほど静かな駐車場を見渡して、並ぶ高級車に人影が潜んでないか、見なれない車がないかと確認する。だが、怪しげな車どころか人っ子一人もいないことに驚きながらも、上階の様子を見てくると門田が先にエレベーターに飛び乗った。
エンジンを切れば携帯用の酸素ボンベが空気を送る音だけが響き、誰も何も言えなかった。静雄は座っているのも辛そうにし、ぐったりと横たわる臨也は脈も落ちてきて、静かだが確実に深刻さが際立って行く。焦りからくる苛立ちを抑えようと、とりとめのない事を思い巡らせて落ち着けようとした。

そこで、ふと思い出せることが。

「そういえば、よく校庭に入ってこられたね。通用門は閉ざされていたし、セルティには車を持ち上げるほど力はないけど…」

確か新羅たちが学校にきた時はまだ閉められていたはずだ。施錠されていたはずの門が開けられていたことに今思い出した。

血の気のない臨也の顔に酸素ボンベを宛てている遊馬崎が、新羅の言葉に首をかしげて考え込む。

「………あれ?通用門はどーんと開けられてましたよ?首無しライダーが開けてくれたとばかりに」

「……やはりそう考えた方が自然だよね。セルティが開けてくれたの、かな」



思い起こせば首を傾げてしまえた事実を、新羅達が知るにはその時はできなかった。遡ること、二十分余り前の偶然を。




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