企画物議

□拾損物
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拾損物




人口密度が世界的に群を抜く都市、東京。その人口を受け入れるための建物は、僅かな隙間すら活用しようとひしめき合って並ぶ。表向きは華やかなビル街でも、一歩裏に入れば入り組んだ路地裏が影を纏う。
そこにある人影なんて、よからぬ事を企む輩がほとんどで、住人や関係者すらなかなか通らない。
だが、そんなよからぬ人は大体夜にいるものだが、昼前は腹を空かせた犬や警戒して逃げ惑う猫ぐらいだ。

そんな狭い路地裏を、時折後ろを振り返りながら走る影がいた。走る姿やゴミ箱を超える仕草は猫のように俊敏で、大きく動く度に体の細さを隠すファー付のコートがひらりとはためいた。

辺りを見渡し、足元の空き缶を蹴り飛ばし、なるべく人気のある方へと走り抜けようとしていた。もう一歩路地を横切れば、と湿っぽい狭い路地裏を走り抜けようとした時、目の前に自販機が現れた。
いや正確には地面からはなれている自販機で、それを担いでいる人間が目の前にいた。


「いーーざーーーやぁーー…ちょうどよかったなぁ。今これを拾ったとこでよぉ…」


そんな馬鹿みたいな事ができるのはあとにも先にも一人しかいない。
そして今一番会いたくなかったまさにその人。
背後を気にしながら、前を塞ぐそいつに舌打ちし、運の巡り合わせを忌々しく思う。無事に戻ったらその足でお祓いにでもいこうか、…信心のない臨也には何の意味もないだろうけど。

「随分物騒な落し物だね?残念だけど、俺は警察さんじゃないよシズちゃん。ちゃんと交番に届けて器物破損で捕まりなよ。だからどけ」

じりじりと距離を詰められ、落下地点を定めようと静雄の目がより鋭く臨也を睨みつける。ここで後ろに逃げてもヤバい、かといって真正面から立ち向かう程余裕はない。静雄から意識を離さず、背後にも気を引き締め、両脇にある建物の高みに手をかけられそうな箇所を探して目を配ればーーー


「……っ!?静雄ッ!!逃げッ………!!」


静雄の上、掲げられた自販機の陰の奥で、向かいのビル上で揺らぐ影が何かをこちらに向けている。瞬時に首筋がぞわりと粟立ち、無防備そのままの静雄に向かって地面を蹴っていた。

咄嗟の言葉と必死な形相で飛び込んでくる臨也に、頭と体の反応が遅れ、思わず手にした鉄の塊を臨也の背後に投げようと腕を振ったーーーー瞬間。

軽い破裂音が耳を劈き、狭い路地裏のコンクリートに反響する。

ほんの瞬間、刹那の事。手から鉄の塊が離れていく間、こちらに突進してくる臨也の伸ばした手が静雄の胸を押し、静雄の視界が反転しビルの隙間から覗く空を仰ぐ。バランスを崩された身体は背中から地面に倒れ、鉄の塊が視界の隅にと消えていく。

ーーーーーヤバい

投げる勢いが足りなかったと感覚で分かる。何故かバランスを崩して静雄の手前で崩れた臨也のその体に鉄塊がーーー



重い衝突音が破裂音を掻き消し、短い悲鳴も交えて響き渡るーーー




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