企画物議

□一日目
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4泊5日の修学旅行を欠席するのは彼らだけでなく病気を理由にした生徒もいた。そして、静雄と臨也が参加しないことに落胆しきった女子生徒と安堵した男子学生と教師陣を見送って、4人は与えられた課題の自習プリントに向かっていた。
一日2科目に分けて4日間旅行がわりに出席なのだが、言葉巧みに見張りの教師を説得し(主に臨也が)一日で終わらせてしまったなら残りは出なくていいと言わしめた。
それならば、と新羅と臨也が終わらせたプリントを門田と静雄が受け取って丸写す。
この時の結束が成せた力が、世の為に向いたらどんなにいいか。

昼休みもとらず、突っ走って終わらせてしまうと、教師に形だけ頭を下げて走り帰った。一番駅に近いということで、臨也のマンションに置いていた荷物を持ち、着替えてはやる気持ちを抱えたまま駅に向かった。
金がないのが普通である静雄は、この旅行すら辞退を言いだしたが、門田、新羅が、「旅行先で臨也と喧嘩しなければ旅費と食費を全部出す」と一筆したためたので了承したのだ。
そして臨也には「静雄に喧嘩ふっかけたら全員の旅費を持つ」と渋々了承させたのだ。
もしも誰か一人でも、冷静に現状をみれたなら旅行はなくなったのかもしれない。この破天荒も褒め言葉になる4人が共に旅行なんて。



夕方から遊園地なんて、夏でもない限り無理な話。なので彼らは今日はまた目的が違う。横浜で中華を食らい、体力をつけたとこで遊園地近くまで移動、適当に泊り、朝一から遊び倒す。
学校でも日常でもない状況に、テンションも上がるだろう。時折臨也と静雄が殺伐としながらも、新羅が広げる横浜タウンMAPであれこれ意見が飛ぶ。
私服姿の一同は、中華街を騒がしく歩いていればやはり目を惹く。まだ高校生であっても、長身の静雄を筆頭に女子に騒がれている面々だ。はしゃぎ慣れてなく、新羅と臨也のテンションに引っ張られている門田と静雄。
街頭で買った肉饅を騒がしく評価しながら名店に向かい、さすがに白衣はマズイと引っ剥がされた新羅が、目を輝かせてチャイナドレスを見つめていた。

「お土産やっぱりあれにしようかなぁ、絶対セルティに似合うと思うんだよね、スリットって夢があると思わないかい?」

カットソーにズボンというシンプルな恰好だが、不健康そうな体格にはピッタリだ。テーブルの間を歩く店員らのチャイナドレスを指して面々に問う。

「買って帰るのはいいと思うけど、着てくれるかどうかは謎じゃない?君の彼女さんはクールだし」

名物のフカヒレに手を伸ばしながら、黒のカットソーと細身の黒のズボン、それに黒のジャケットと、相変わらず私服でも腹黒さをアピールする臨也が答えた。偏食を極めているお陰で食は独特のペースで進めている。

「折原、子供じゃねぇんだからピーマンぐらい食えよ。さっきから俺の皿緑色なんだけど」

酢豚のピーマンがあり得ない早さで臨也の皿から静雄の皿に移されて、鮮やかな緑色がよく映える。
青椒肉絲のピーマンも何故か混じっているが。
ジーパンにTシャツ、その上に腕を捲った襟つきのシャツを羽織っただけの静雄。先程から偏食家の臨也のお下がりを戴いている。

「騙されたと思って食ってみろよ、そんなに苦くもないって。フカヒレばっかじゃ偏るぞ?」

いつでもどこでも落ち着いている、半ば引率者的な門田は、スポーティなジップアップのパーカーにジーパン姿だ。好き嫌いを指摘され、不貞腐れる臨也も門田には弱い。

「大して栄養もないものを無理して食べるまでもないじゃん、あ、ねえねえサンラータン頼んでいい?」

「臨也汁物好きだねー、じゃあ僕は北京ダック食べたい」

「そろそろ飯粒が食いたい。俺五目炒飯頼むわ」

「……やっぱりお前ら自由すぎるな」

食事の美味さもあってか、屋上での昼飯時をさらに和やかにしたような空気。時々嫌いな食材を静雄の皿に乗せようとした臨也が、その手を掴まれ無理に食べさせられて涙目になったり。それを見て新羅も笑ったし、門田も笑えば珍しく静雄も小さく笑っていた。

日常から離れていたからこそ漂う和やかで賑やかな時間だった。
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