捏造長編

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ここしばらく、恋人の様子がおかしい事に、彼女はどうしたらいいのか思いあぐねいていた。
二人が喧嘩して仲違いだとかならまだいいが、二人の共通である知り合いに関する悩みならば、どうしようもない。
しかも、浅くない知り合いでもあるし、取り引きもあったし、新羅にいたっては古来の友人だ。
友人、というには仲が良いわけじゃない。けれど世間一般の友情を考えずにいたら、新羅にとっては友人に思えているはずだ。
気にしていない、関係がないと振舞ってはいても、どこか暗い顔をして気がつくと考え事をして溜め息をつく。
気にしていないよ、何て言われてもこちらがやきもきするぐらいだ。
そんなに気にするな、何て言えないし大丈夫だ、なんて気軽に言える状況でもない。
そんな中、ネット上でその生存が垣間見えた時に、ほんの少しの安堵と、また質の違う悩みに顔色を落とす。
恋人をはじめ、周りを巻き込むそのオトコに腹立たしくもなるし、何も出来ないことが歯痒い。
助けてやる事よりも、現状をどうにかしたいのが、本音だ。

昨夜、静雄に送ったメールの内容も新羅は把握しており、静雄からの返信がないことに些か不安を感じる。
先走って横浜まで追い駆けて殺しやしないか、と。

沈む新羅とそわそわと落ち着かないセルティの二人が住むマンションの、インターホンが鳴ったのはそんな時だ。
のろのろと立ち上がり、力無く出た新羅が、セルティに玄関を開けるようお願いする。ヘルメットも被らず、首がないままを晒せれる客人は少ない。

玄関を開けたら、無表情のままの静雄が、片手を軽く上げて挨拶する。

「朝からすまねえ、ちょいと話したくても携帯また壊れてよ、新羅いるか?」

彼女はそのまま中に入るよう促し、項垂れた新羅の肩を優しく叩く。

「……ああ、おはよ静雄。本当に臨也は困り者だよ」

「セルティから聞いたが、あの馬鹿、何考えてんだ」

「こっちが知りたいよ。ちょっとだけ知り合いだからって、僕まで疑われて疲労困憊なんだよ…周りの連中も、実は臨也を隠してないかって疑心暗鬼の睨み合いだしさぁ…」

「横浜にいるんじゃないのか?」

「横浜に押しかけた連中がいるらしいよ。目撃されたかなんかで、タレ込みあったらしいし。で、どこの組なのかもわかったみたい。ちょっと前にごたついた訳有りさんみたいでね」

「……そこで奴は消されると思うか?」

セルティも新羅も静雄も、張り付いたように強張った。昔から知る臨也が窮地に陥ったとして、その時は。

「……いいや、飄々と切り抜けてくるだろうよ。口八丁手八丁、君相手に比べたらチャカやドスに頼る連中なんか怖くないだろ」

「やっぱりそうだろうな。いつ池袋にあちこちからチンピラが集るか時間の問題だろ」

「そうなると本当に池袋が戦場になる。折原臨也を始末するのは誰だ、なんて小競り合いになるだろうし、それぞれが皆、仲が良いわけじゃない。
抗争の真っただ中である派閥同士が街中で顔を合わせたら……」

まさに任侠映画や、海外のアクション映画がこの街で再現されてしまう。一般人を巻き込んで。

「警察は動けるのか?」

「そうならないためにも、公共機関は緊急網張って臨也を確保するかもしれない。昨日から警察は黙ったままなのが気になるけど」

その時、セルティが慌ててテレビの音量を上げて二人にそちらを指差した。テレビでは厳格そうなキャスターがニュースを読み上げている。

『今朝早く、横浜のビジネスホテルにて暴力団同士による発泡事件がありました。死傷者が4人でており、従業員や他の宿泊客には被害はなく、銃刀法違反で検挙された暴力団関係者から事情をーーー』

横浜に乗り込んだ暴力団。臨也を捕らえた横浜の奴ら。多分これか。

怪我人、死者の名前がいつ出るか三人は目を張る。テレビに映るパトカーや救急車、特殊車両に囲まれているホテルの画像に釘付だった。
撃ち合いの現場が出れば、ホテルの清潔感ある廊下は無惨に変わり果て、あちこちに血らしい染みがある。
そして次に、ホテルの防犯カメラの映像に切り替わるが、年代物らしく画像が荒い。
顔がわからない男共が廊下を走り、暴れ、部屋を乱暴に開けて銃撃戦。
三人はその部屋の扉を凝視している。開け放たれた扉を押さえる男らが二人なのか三人なのかもハッキリしない画像。だがそこに。

扉から飛び出した人影は、男らを跳ね除け、狭い廊下に躍り出た。
どこか見た事のある服装、顔はわからない。だが背格好はーーーー

「臨也だ」

新羅がセルティと静雄の胸中に出た名前を口にした。生きていた、やはり逃げようとした。
それならいつこちらに着くだろうかと算段している間も映像は止まらない。

手前のチンピラが、取り出した黒い何かを走る背中に向け、硝煙が上がる。
音は聞こえないが、チンピラが衝動に体を揺らすと、背中を向けていた臨也っぽい影がよろめいて画面から消える。


そこで映像が終わる。


死傷者の氏名は結局出てこない。そしてキャスターは次のニュースを読み始めたが、三人は時間を止めたかのように動けなかった。




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