戯言短編

□反作用エゴイズム
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動けない臨也に、情報の取引を迫りながら暴力に勤しむ男。
徐々に力を加えていって臨也の反応を見ては愉しんでいるのがわかった。
しかも腕や腹、脚には散々だったが、顔には何故か手を出さない事に悪い予感はしていた。
質のいい革靴は人を蹴るのに具合がいい、と散々わかったところで、目の前に愉しそうな男の顔が現れる。
三十路半ば、冷徹そうな顔には見覚えがある。

「折原くんはやっぱり綺麗な顔をしているねぇ。その顔がどうしたら絶望して泣き喚いてくれるかなぁ?」

目の前で嗤う男の目は臨也を見ていない。完全に子供が玩具を見つけたような目だ。その目を見た瞬間に、背筋がこれでもかと寒く凍える。
逃げたいと、全身が訴えた。

男の低い声は明らかに愉悦を含んで、言葉一つでも臨也の恐怖や苦痛を煽ろうとする。
反応を返さないよう必死に声と表情を殺してきた臨也も、耐えかねてたじろいだ瞬間を見逃されない。

「素直が特なんだけどねぇ…まぁ折角だから愉しもうか」

目が笑わないその笑顔が、仮面みたいにずっと張り付いていて、おぞましかった。
手下たちがやっと動くよう指示が出れば、両腕両足を怪我お構いなしに掴まれ、噛み締めた唇から声が漏れたなら男は興奮めいた。
そこでこの男の正体など思い出したくもなかった。嗜虐的な趣味で有名な地上げ屋だと。
臨也に目をつけていたのか、情報が欲しいのか、この男はどちらとも重要だったろう。どこかで気をつけるよう忠告を受けた事すら忘れていたのに。

痛みつけた手足に、時折部下どもが力を入れ、男は案の定臨也の服を剥いで肌を晒す。蹴り上げた腹に何かしら紫痕が刻まれていたのか、その箇所箇所に無骨な掌を這わせて圧迫する。
引き締まった細い腰に鈍い痛みと息苦しさを与えながら、何をされるか感じ取る臨也の表情を窺っていく。

恐怖と不快感に気丈にも唇を噛み締めて耐えようとするが、他人に力尽くで踏みにじられる言い様の無い不安。それはじわじわと冷静で計算高い臨也を追い詰める十分な凶器だった。

「気が強い子は嫌いじゃないね」

さっきまで臨也が握っていたナイフが男の手にあった。それに気付いたのは、ナイフの冷たい感触が腹に触れた時。刃を立てず、スッと下へ滑らせ、ベルトをゆっくり引き裂き、ズボンの前まで割いてしまう。
意識が現実と少しずつズレていくのに、布が裂かれる音は男が手を動かす度に耳元に響く。
心臓が臨也の薄く呼吸に忙しい胸を破るかのように早打ちする。これは、何だろう、久しく味わってない、恐怖?

何をされようと、どうなろうと自我を守る意地が萎えてしまう、このまま男を止めれなければ自分が、ヤバい、わかっている、なのに。

少しずつ顔が凍り付いて行く臨也の顔をみながら、男は殊更卑屈に笑い、ズボンと下着に手をかけて喉を鳴らす。やはり、思った以上にこの子はいい、もっと困らせたくなると高揚していく。
興奮に息が雑になる男の吐息が、晒された肌に触れる。途端に感じる穢らわしさ、下肢が露わにされる失望感。
噛み締めている唇は鉄の味が広がる。押さえ込まれた腕や足は力も入らない。臨也に跨る男はナイフで力無く睨む臨也の頬を叩き、無駄肉のない太腿をざらりと撫でた。

「顔も体も綺麗だねぇ。ぶっ壊したくなるほどに」

「……随分な、ご趣味、で」

やっと言えた悪態は震えて情けない声だった。余計に男の嗜虐心を煽るだけで逆効果になる。
足にかかる痛みや力がふと抜けた刹那に膝を持ち上げられ、興奮しきった男が自分のズボンに手をかけていく。

「いいねぇ、その顔。泣き叫ぶ顔がより見たいねぇ、記念に残したいぐらいだ」

臨也の足を抱え、距離を詰めてくる男の背後、足を押さえ込んでいた手下の一人が、携帯を開いてこちらに向けてくるのがわかった。
悪趣味すぎる、脅すつもりか。
撮影中だとわかる背面のランプが揺らぐ。引き込まれたその時に、馴らしも触れられもせず、後孔に男の昂りが突き立てられる。

「ーーーっ……づ、ぁっ!!」

体重と力で無理にねじ込まれる他人の熱は痛みと不快感と圧迫される苦しみ。男が無理にそこを押し広げようとする度、体が裂かれそうな激痛が臨也の背中を反らさせる。
両腕はまだ固定されたままで反射的に反らした際に、肩が攣った傷みがあったが、それすらも遠くなるほど下肢の傷みが臨也を襲う。

「……っ、いい、ね。いい顔だ」

声の無い叫びを息で無理に吐き出し、酸素を吸い込むことすらできない程強張る身体。
動けないまま穢されていく恐怖に、ついに閉ざした目の端が濡れる。力無い両足を目一杯広げられ、折り曲げながら男はその細い体を貫こうと圧しかかる。

「ぁ、……っ、ぐっ……」

ミシミシと音が体の中で響く。僅かずつに後孔の蕾が押し開かれ、男の昂りが埋もれていく。あらぬ箇所から他人が入り込むのがわかる。

「や、めっ……、ぅ……っ?!」

押し付けられている熱とは違う、痛みのある熱がぬるりとその箇所を濡らした。無理な暴力に血が流れてきたが、それすらも男には好都合で、滑りを得たその熱を臨也の内に押し込んでしまう。

「あ、っ……!…っ…!!」

抱えられている脚が戦慄く。内臓すら吐き上げそうな圧迫と痛み、閉ざした目から堪えきれず滲む涙、再度唇を噛み締めようも、震えからか出来ない。
そんな臨也の顔を満足そうに見ながら、少しずつ腰を揺らしていく男。
ずる、と内が擦れる度に臨也の体が震えて痛みを訴えた。
泣くのを堪えるように眉間を寄せ、内を侵していく他人が許せなくて叫び出したくなる。でも、ダメだ、耐えろ、耐えろ。

「強情だねぇ」

今にも高笑いしそうなほど上擦った男の声は、律動で揺らぎ、狭い秘部を抉る。
声にならない声が喉を締付けてる、冷たい地面に頭や背中が擦れても気にならないほどもがいても、手足に力を入れようも侭ならない。
もうやめろ、終わらせろ、だが思い通りに誰がなるかーーー

「……ひっ、ぁ……!っ…ぁーー」

漏れる声を堪えようとしても余計に声が混じる息に変わる。痛みと恐怖に喘ぐ臨也の様に追い立てられ、男はその腰を掴むと動きを荒げ、短く息を呑む。

「ぁ、ーーーーーっ!!」

その内側に白濁した熱を吐き出していく。どくどくと流れ込んだ熱が耐え難い不快感を押し上げ、絶望に意識がぐらつく。
男が体を離せば、その箇所からどろりとそれが垂れているのがより感情を揺さぶり、叫んでしまいそうだった。
目を閉じて羞恥と絶望に苛まれながら、男は殊更愉しそうに声を荒げる。臨也じゃなく、手下どもに。

「私だけがお相手だと不満のようだ、おまえ等も相手してやれ」

そう言うと自分の周りを囲んでいた手下どもが動く気配がした。笑い声だとか話し声もしていた気がするが、聞こえてなかった。

物好きには物好きが連むものか。


ーーーそれがまともに考えた最後の言葉で、直後最悪最低としか言えない悪夢に意識も自我も、放り投げた。






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