捏造長編

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まだ授業中なのか静かな学校の門前、懐かしくも腹立たしくなる母校の門前。
息が荒いまま携帯を取り出し、リダイヤルをかける。
ワンコールも待たずに飛び出たマイルは、やっと落ち着いたのか、嗚咽はない。
鼻を啜る声はしても、裏口近くに潜んでいると教えてくれた。
裏手に回ると、建ち並んだ倉庫や部室、用具室が見えてくる。
そして勝手口といわれているコンクリートの壁に埋もれたアルミのドア。
記憶にあるよりずっと新しく見える。

そういえば、臨也を追ってこの付近を壊したことがあった。
苔むすコンクリートの壁が一部、やや新しいのはその為だ。
それから施錠をやめた勝手口は、残された後輩達の脱出口になったとか。


周りに警戒しつつ勝手口を開けて中に入り、物陰を見回した。
すれば、校舎から一番遠い物置の影で、しゃがみこんでいる双子を見つける。

足早に近付き、二人の側に座り込むと泣き腫らした真っ赤な二人の目が静雄に向けられる。
ほっとしたのか、またその目が潤み出していく。

「……どうした、お前等逃げたんじゃないのか?」

「……逃げてたんです。ずっと前イザ兄に教えられた。
イザ兄が追われる事になったら、人が多い所を転々と動けって。
都内もいいけど、テーマパークとかとにかく、色々」

質問に答える、というより、独り言に近いかもしれない。
クルリもマイルも俯き、微かに震えて青ざめている。
こんな時にどう女のコを扱ったらいいのか、残念ながら静雄には知識が乏しい。

「…周りに怪しい奴がいないか、常に気を使ってた。なのに、横浜から神戸に行く途中…捕まって。
知らないヤクザの名前で、兄貴を出せってしつこくて」

すれば二人は身震いして黙ってしまう。
いくらこの双子でも、極道の男らに囲まれて怒鳴られたものなら相当怖かっただろう。

「……本当に殺されるんじゃないかって思った。
だから、私たち、わ、渡しちゃっ、て、
紙っ……!」



紙。


それは静雄から双子に渡った、臨也の命運がかけられていたもの。

「す、すぐ、あいつらっ、電話してっ、イザ兄すぐ、出てっ、何かしゃべっ、て」

隣にいたクルリが先に泣き出している。マイルの目からも涙が溢れる。
震える口は、静雄や双子自身に向けた言葉を止めない。

「い、イザ兄はっ、もしあたしらが捕まったら、自分を出していいって、いつ、いつも言ってたっ
夜に、なっ、なって、イザ兄、きてっ」

静雄は、背筋が凍り付いていくように緊張していく。

「あ、あた、あたしとクル姉にっ、帰れって、わ、笑ったんだ。
よく出来たなって、あた、頭ーー」

そこまで叫ぶように言うと、双子は揃って泣き出してしまう。
子どもの、それも女の子の涙なんて本当に見ている方がきついもの。
ハタから見たら俺が悪いんだろうか、そう思ってしまう。

弱る静雄は、彼女らの肩を遠慮がちにさするしか出来ないまま、その経緯を聞かされる。
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