捏造長編

□ 10
2ページ/2ページ






某所、某時刻。


強面な男らに囲まれ、時計すら見れない状況。
自分らに何が起きてもおかしくない長い時間。
双子らは自分たちがここに来てどれだけ経つのかもわからないまま、怯えて小さくなっていた。
いつもの双子がどんなに勝ち気でも、大の大人ばかりで銃すら出てくる場所で暴れる程愚かじゃなかった。
無駄な口も利かず、寄り添って時折向けられる冷たい目線に耐えて。
いつまでもこの緊張が続くんじゃないか、そうも思える程の沈黙。


その沈黙を破って現れた、前後を屈強そうな男らに囲まれた、兄の臨也。
その姿に安堵と申し訳なさに双子は泣き崩してしまう。

幹部らしき男に、ポケットの中や鞄を調べられている間、双子らに薄く微笑みかけていた。
そして、双子らを解放するよう持ちかけ、泣きじゃくる双子に近寄る。

「あーあ、らしくないなぁおまえ等は。俺の妹なんだからもっと強くいろ、強く」

幼い頃から泣いていたら、そう言い聞かせていた。
お陰で性格があらぬ方に捻じ曲がってしまったのだが。

「まあ、お前等にしては上出来だ。よくがんばった、褒めてやろう」

そう言って、泣く双子の頭を、片手一人ずつ、優しく撫でて宥めた。
何年振りだろうか、兄の掌で安心できるなんて。

「こっから先は大人のお話だ。子供は早く帰れ。
…池袋の連中に、よろしくな」

いつものように笑う臨也。昔から慕ってきた兄の笑顔。
だがその顔に不安を感じた双子が、臨也に駆け寄る寸前、
下っ端のヤクザに腕を掴まれて引きずり出されてしまった。
最期に大声で名前を呼んでも、振り向きもせず、臨也は捕らわれた。



そのまま目隠しをされ、随分と長い時間車に乗せられ、気付いたら東京近郊に下ろされていた。
全財産が詰まった荷物が無事なのが幸いして、泣ながら二人で池袋まで戻ってきたのが、今朝。
二人は泣きすぎと疲労で、うら温かい日中に寒そうに震え出した。

「……そうか。とにかく今はお前等は休め。もうお前等は狙われる事はないだろう。
不安ならどっか…」

携帯のメモリを見ながら、誰か相談に適した奴がいないかみているとマイルが顔をあげた。

「……責めないんですか?わ、私らを」

「は?責める?」

「だ、だってイザ兄は私らが捕まらなければ、捕まらなかった、
番号もさっさと処分してればよかった!
もっとうまく逃げてれば、イザ兄は」

「……臨兄」

絶望のどん底を見ている4つの目はまだ涙が止まらない。
あまり見てると夢にまで泣かれてしまいそうで、若干視線をずらして二人を見やる。

「うん?何か勘違いしてるんじゃないか、お前等。
あいつは俺にあの紙は誰に渡ってもいいって預けたんだぜ?
あれも兄貴の賭だった、まぁ思惑どおりに俺はお前等に渡した。
あいつは俺がどうするか、わかった上で……クソ、腹立つ……」

言いながら臨也が、静雄がどうするか見越していたのに気付いてまた腹が立つ。
怒りを抑えるのと、間をおくつもりで大きく息を吐く。

「で、お前等があれを持っていれば、最悪お前等が捕まった時に役立つと睨んでいた。
実際そうなった。
だからあの紙の役目は100%あいつの計算どおり。
お前等双子を助ける為の兄貴なりの気遣いだ。
…妹ならそこまで気付いてやんな」

「イザ兄ぃ…」

「…お前等は待ってやれ、あいつのことだ。うまい事やって逃げてくる」

あのずる賢い害虫並にしぶとい奴だ、と言い締めようとする静雄に、
マイルの冷たい声が振り下ろされる。

「ちがう、ちがうんだよ静雄さん。
もうイザ兄は…も、戻ってこない、気なんだよ。
イザ兄のことだから、屈するなんてしない、変に命乞いもしない。
もう諦めてるんだよ…
だから、だから、ど、どうか、助けてよ…」

「「…イザ兄を助けて」」

双子の声が重なり、悲痛なその願いは十二分に静雄にもわかった。
臨也じゃなくて、彼女らの兄をできるなら助けてやりたい。

だが、それは静雄にも周りにもできない、叶えてやれないのだ。

「…幸せな兄貴だな、中身はクソでも」

クソでも、あいつなりに妹らを守った事は褒めてやりたくはなる。

それでも、奴に手を差し伸べる事も手立ても出来ない。
申し訳なさに双子らを見返せないまま、ゆっくりと太陽は西へと傾いていく。
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ