捏造長編

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ニュースにこそならないが、とうとう警察も動き出した。
私服警官が街に出回り、折原が関わった場所や人を回っている。
それに加えてあからさまな強面の面々も街中や町外れに徘徊し、
隠れていそうな箇所を叩き調べていく。
血気多い若い衆が、無関係な人や場所で面倒を起こし、警察の仕事を増やしてもいるが。

あれからぷっつりと、もう終わったんじゃないかと思える程静かになった静雄の周り。
もしかしたらトムさんは知ってるかもしれない、それを静雄に伝えないのかもしれない。
そして、あの晩臨也に会った事を社長らに言ったかもしれない。
別に報告は義務だし、口止めした訳でもない。
トムさんの立場が悪くなるならどんどん喋って貰いたい。

そんな事をどれも一つも表に出さず、いつも通りな上司には本当に頭が上がらない。
感情がすぐ出る自分を気遣ってくれてるのだろう。


午後の取り立てまで時間がある、とのことで一旦自分のアパートに戻り、ネクタイを外して寛いでいた。

その時、手元の携帯が大きく震えて着信を知らせる。

ディスプレイに映るのは臨也の妹、マイルである番号。
確か来良の学生カップルが、双子がしばらく休学すると教えてくれた。
最後会った時、御守り代わりにすると言って、自分と携帯番号を交換した。二日ほど前。


連絡来るのが早過ぎないか?


暇潰しだろう、世間話だろう、と思っても今の状況で連絡することは嫌な予感しかない。
簡便してくれと携帯を耳に押し当てる。

「……なんだ?」

『し、静、雄さんっ、あ、あた、あたしたち……えぐっ』

電話の向こうの少女は、日頃の勝ち気さはなくて、ただ泣きじゃくっている。
話すのを待っていたが、泣き止む気配はない。

「……どうした?今お前等学校休んでブクロから離れて……」

『……ひぐ、ぅぇぇっ、う、ううん、池袋っ、今、えぐっ』

逃げてたわけじゃ、なかったのか?

何やってんだと思わず言いそうになったが、泣きじゃくっても喋ろうとする必死なマイルを待つ。

『いま、っ、から、会えま、せんかっ電話じゃ、ムリっ…!』

最後は半ば叫ぶように泣き崩れたマイルの声が遠のくと、静かにすすり泣く声が近付く。

「……?クルリか?今お前等どこだ?」

『……学校……』

「わかった、そこから動くな。着いたら連絡する」

通話を終わらせる前には家を飛び出していた。
まさかの事態なのか?いや、何で逃げた双子がまだ池袋に?

走って双子が隠れている来良学園に向う間、変に胸が押されて息苦しくなる。

本当にあいつは、何でこう俺を振り回すんだ

奴の顔をぶん殴りたい衝動が、久し振りに体中に湧き上がっていく。
その顔は、あの時見たあんな弱い顔しか思い出せないのがまたむかつく。
行き場のない感情が頭を揺さぶるけれど、足はただ動く。ついで口から飛び出る名前。
だけどどうしても、名前を呼べば悪い予感が全て敵中しそうで出て来やしなかった。

「……クソ蟲が……!」






チャットルームには誰もいません
チャットルームには誰もいません

ーーーセットンさんが入室しました

セットン  誰もいませんね
セットン  でもこんにちわ
セットン  今日もいい天気ですよ

セットン  でもここは誰かに見られてるのかな?

セットン  最近相方が、塞ぎこんでしまって
セットン  かける言葉が見当たらないんです
セットン  知り合いがゴタゴタに巻き込まれて
セットン  どうしていいかわからないようで
セットン  私の知り合いでもあるんですけど

セットン  すぐに片付く問題でもないみたいだし
セットン  私や相方じゃあどうしようもできないし
セットン  どうして欲しいかその人に聞けたらいいんですが
セットン  連絡取れなくて

セットン  それに
セットン  こういう時、他人に頼る人でもないし

セットン  毎日葬式みたいに暗いんですよ
セットン  あ、葬式とか縁起でもない

セットン  でも
セットン  あ、仕事だ
セットン  もう落ちます

セットン  でも相方は

セットン  何も出来なくても連絡を待っているみたいです

セットン  では


ーーーセットンさんが退室しました

チャットルームには誰もいません


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