捏造長編
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朝方聞いた話は胸奥にじりじり重く残る。心臓の周りを重りが這い回っているようだ。
社長も粟楠会も、前々から諍いが耐えない俺と臨也が絡んでないか疑ってただろう。
残念だが、俺の手を汚さずにあいつが死ぬと思うと、長年培ってきた憎悪が昇華される気がする。
だから臨也を始末してくれるであろう輩の応援をしておこう。
社長らも、俺はあいつの携帯番号を一度も登録したことがないこと、
見つけたら報告より先に殺すかもしれない事を口にしたら信用した。
なのに、さっきからわけのわからないものが胸の奥でぐるぐるしているのだ。
あのノミ蟲がやっとこの街から追い出されたんだ。
明日からバラ色の生活になるんじゃないか?
冤罪もなくなれば意味のない喧嘩に巻き込まれることもない。
あのムカつく顔を見なくていいし、ふざけた名前で呼ばれる事もない。
なのにちっとも嬉しくならないのは、実感が湧かないからだろうか。
やっぱノミ蟲の死体でも見ないと…
「おい静雄、もう着くぞ」
繁華街からずれたとこにある安アパート群。その中でもかなりの安普請な作りの木造アパートをトムは示した。
アパート名が何とか荘らしいが、看板は薄れて読めない。
「ええと、ヤマダユキオ、40歳??
金額は5万…最近地方から来た田舎者らしい。
40にもなって都会でテレクラ遊びか…
嘆かわしい時代だな」
むき出しになった外付けの鉄階段は取っ手はもう腐食して宙に浮いている。
そのヤマダがいる奥の部屋以外、人がいる気配がまったくない。
ヤマダの部屋も静かなものだ。
「いないんすかね?」
「いや、夜は大体居留守らしい。あまりにも強情だからお前が必要なんだよ」
「…暴力は嫌いっすよ?俺」
その言葉にはトムは答えなかった。代わりに笑ってノックを促す。
叩いただけで破れそうな、反り返った木製のドアだ。
施錠しても意味がなさそうなぐらい建て付けはガタガタだ。
二度ドアを叩くと、玄関横のガラスまでびりびりと鳴る。
「ヤマダさーん、ご利用料金の徴収でーす」
抑揚のない棒読みで声をかけても応答はない。
もう一回ノックしようとすると、トムがドアノブを回した。
「…鍵開いてるぞ?」
本当に施錠の意味がないようだ。静雄が手前にドアを引いてトムを中に通す。
すこし頭を屈めてトムに続くと、何故か慌てていた。
その理由は4畳一間の部屋から、間抜けな声を出したのだ。
「あー、やっぱりシズちゃんだ」
何故時の人であるこいつがここにいるんだ。