戯言短編

□prison of hate
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*微エロテイスト
暴力的な表現があります。ラブラブじゃないのでご注意を






俺はいつしか、というかごく自然に、人間は面白いと覚えていた。
何を感じ、何を言い、何を考えどう動く。

一人一人を観察し、実験したり失敗もあったりしたけど大抵の人間はパターンに準えて生きている。
全てを知ったつもりでも、じわじわと
知らない事が湧き出てくる。
個々の意識を持った、愛しい存在達。

愉しませてくれる、充たしてくれる。



一人を除いて。


初めて会った時から、今まで会ってきたどのタイプでもない男。
単純で、短絡的なのに嫌に鋭く喧嘩がめっぽう強い。
決して媚びもせず、なびきもしない。

やだなあ、この人。


第一印象はその一言に尽きる。挨拶しただけでめちゃキれてくるし、
どんなに切っても陥れても少しもへこたれない。
普通なら、俺なんかに関わらず逃げていくだろうに、
飽きもせず毎回毎回息の根を止めに来る。
息を止められたくないけど、殴られるのも痛いから、あしらって逃げる。
本当にいつになれば飽きてくれるのか謎だ。
今日も今日とて、また追い込まれているし。

「だーかーらーね、シズちゃん、俺は忙しいの。どーせ勝負つかないんだからまた明日、ね?」

建設中の建物に追い込まれて、俺は短ランのポケットに手を突っ込んでバタバタさせてみる。
あちこち色々ぶつけられて所々痛いのにも腹が立つ。

確か午後一の授業が終わってから喧嘩始めたよな、とすっかり日が暮れた辺りを見わたす。
向かい合う長身の金髪ブレザー君こと平和島静雄君は、変わらず睨み付けて握る拳を震わせている。

「明日もテメェと会わなきゃなんねえのはツラいもんだな、臨也くん?」

「やっと名前で呼んでくれるのはありがたいけど、嬉しくないな。
名字を街中で連呼されるのも嫌だけどさ」

「そりゃよかったなぁ」

背後は壁があって逃げれない。かといってもう一暴れする元気もない。
いっちょからかって呆れさせて帰そう。

間合いをつめた静雄が、殺す勢いに臨也へ振り下ろしてくるが、
臨也はギリギリにかわして静雄の懐に潜る。
本当はここでナイフを刺したいところだが、さっきガードレールで殴りかかられた時、避けるため犠牲にしたんだった。
ガードレールを持ち上げる人も、ナイフがひん曲がるのもはじめて見たな。

そんな事を考えながら、頭ひとつ近く大きい静雄の顔を覗き込むよう間を詰め、
振り出されていた腕を脇に挟んで固定する。


「ほんとにシズちゃんはしぶといな。まぁ、そっちも俺のことそう思っているだろうけどさ」


「…そうだな、どうやって殺すか考えるのも飽きてくるぜ」


これだけ長く喧嘩しても怒りも体力も尽きないらしい。こっちはもうヘトヘトなんだけど。
脇で抑えた腕に力が入る。彼なら簡単に解いてしまうだろう。

その時、さあ言おうとした事に一瞬だけ頭のどこかが警鐘を鳴らした。
それは本能からの危険信号だったと後々になってわかったものだ。



逃げろ、と。





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