戯言短編

□prison of hate
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「…ねえシズちゃん、俺みたいに大っ嫌いな人間をどうしたら黙らせるのか、どれだけ考えた?
殴り飛ばす、殴り殺す…まあ、それだけだろうけど」

窓ガラスが入ってない剥き出しのままの窓から、ビル街のネオンが射し入ってくる。
それに照らされた静雄は、整った綺麗な顔を怒りに引き攣っている。
その顔を覗き込む臨也の顔は、幾重にも何かを企んだ笑みをしていた。
からかうのが愉しいと、無邪気さも浮かせて。

「暴力が通じないなら、違う暴力を試してみよう、なんて思った事は?
性的にだとか。
ああ、でもシズちゃん経験まだだもんね。そんなもんで童貞切りたくないよねー」

あはは、と殊更無邪気に笑うと、なぜか脇にある静雄の腕からチカラが抜けた。
呆れてくれたのだろう。
暴力にすぐ出るくせにどこか天然で、素直で掴み所がない静雄。

自分みたいにまだ、汚い闇を見た事ない目は、静かに臨也を見下ろしていた。
怒りの表情からすっと、何か抜けてしまった顔だ。

そして臨也の頭にまた警鐘が鳴る。

「まぁいつか試してみるのもいいかもね、流石の俺もゴーカンされた事ないし、傷つくかも」

『    黙れ。  』

それが警鐘の音だったのか、静雄の声だったのか。


脇で押さえていた腕が、いきなり動き臨也の背中を掴む。
そのまま息継ぐ間も無く足を払われ地面に叩き伏せられる。

バタン、と倒れこむ音と、土埃が微かに舞う。
地面に倒された臨也は背中や腰の痛みも忘れて、自分に跨り、顔を挟むよう腕を地面に突っ張る静雄を見上げた。

「…な、何、シズちゃん。まさか本気にした、とか?」

この時に臨也は、さっき感じた違和感が本能からの警鐘だったと気付いた。
でも、気付いたからとはいえ、もう遅い。

「なるほどな、その手もあるわけか。
…そういう趣味があるなら試してみてもいいかもな、臨也」

そう言って見下ろしたままニッと笑うその顔は、臨也に初めて人が怖いと思わせた。
怒りだけじゃない、侮蔑の意や卑下する、人を人だと見てないようで。


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