ありふれた物語=小さな奇跡=

□さぷらぶ!!〜Surprise Love〜
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「梓?なに、今日急いでんの?」

 誰とも話さずにいつもの倍のスピードで帰りの仕度をしていると、勇馬がお菓子を食べながら近づいてきた。

「うん、だから一緒に帰れないよ」

 ちゃっかりお菓子をもらいながら、鞄のチャックをしめる。

「わかった。でもなんで?」
「勇馬、もう一個ちょうだい」
「いいけど」

 差し出されたお菓子の袋に手を突っ込み、つかめるだけお菓子をつかんだ。
 コンソメ味のポテチは好きだ。

「梓取りすぎだろ!」

 半ば悲鳴に近い批難を聞き流しながら、鞄を肩にかける。

「ごちそうさまでした。
 今日ね、あずまが帰ってくるの」
「あずま?
 え、あずまって誰!?」

 なぜか勇馬が身を乗り出して聞いてくる。
言ったことなかったっけ、と首を傾げていると、

「なに倉木知らないの?」

 いつの間にか隣に来ていたすーちゃん(本名は鈴木美和っていうの)が呆れたように呟いた。
その手にはちゃっかり、勇馬が持っているはずのポテチの袋があった。

「知らない…!
 梓っあずまって誰だ!?」

 両肩を掴まれ、上下に揺さぶられる。
揺れの中で満足に滑舌できないなかで、辛うじて「あずまは…お兄ちゃん…」と言い切る。

「あずま…お兄ちゃん?」
「そーだよ。
 一人暮らししてるんだっけね、梓?」

 勇馬が知らなかった!と叫んでいる隙に、すーちゃんが軽く説明してくれた。

「まあ会うのは久しぶりじゃないんだけどね。
 久しぶりに家に帰ってくるから、迎えてあげなきゃ」

 今だに頭を抱えている勇馬と冷静にポテチを食べつづけるすーちゃんに、じゃあね、と手を振って教室を出る。

「ばいばーい」
「梓また明日!」

 二人の声を背に受けながら、私は小走りしだした。


 5つ年上のお兄ちゃんは、大学が家から少し遠いこともあっていつもは大学の近くで一人暮らしをしている。
たまに呼び出されるから会うのは久しぶりではないけど、家に帰ってくるのは半年ぶりくらいだ。

 だから、ちょっとだけウキウキしている自分がいた。
きっと今日はご馳走だろうし。

 電車の中でも、いつものように辺りを見回したりせずに、落ち着いて過ごせた。
いや、早く家に帰りたいなって思ってソワソワしてはいたけど。

 私は早足で歩いたから、いつもの半分の時間で家に着いた。
玄関のドアに手をかける。

「ん?」
 
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