ありふれた物語=小さな奇跡=
□片想い電車 君行
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これは、俺が梓に告白する少し前の話。
***
「梓ーっ一緒に帰ろ!」
「良いよー。
ちょっと待っててね」
そう言って、彼女は教科書を抱えて教室を出て行った。
そんな様子を見て、内心ガッツポーズをする。
一緒に帰れる!
俺の部活がない日は一緒に帰ることが日課になりつつあるとはいえ、OKしてもらえる度嬉しくなる。
梓が戻ってきたのを見計らって、鞄を持った。
「勇馬さあ、今日、勇馬の好きなバンドのCDの発売日って言ってなかったっけ?」
「そうなんだよ!
今日CD屋寄って帰るつもり」
大丈夫、ちゃんとお金は持ってきている。
頭の中で財布の中身を思い浮かべていると、梓が俺のブレザーを引っ張った。
「それって勇馬の地元?」
梓が軽く首を傾げて見つめてくる。
それはずるいだろ!
なんて叫びが通じることはなく。
辛うじて「あぁ」と頷く。
彼女は「んー」と言った後、
「私も行っていいかな?」
「あぁいいよ…って、え?」
「駄目なら良いんだけど…
勇馬の地元行ってみたいなって思って」
我が耳を疑わずにはいられなかった。
梓が、地元に来る?
「良いよっ」
まず断る理由ないし。
放課後になっても、少しでも梓といられることに不満なんてない。
そう、この頃から俺は梓にゾッコンだった。
入学してから2ヶ月ちょっと、そんな期間の短さなんて関係ないくらい、好きだ。
梓は、全く気づいてないだろうけど。